小夜恋歌

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「俺の一族はもともと、ナザル国の巫覡(ふげき)だ。昔はこの邪視(じゃし)で王より権勢を誇っていたらしいが、結局は力のせいで国を追われたそうだ。せっかくサウラに籍をおいて巷間(こうかん)にまぎれたのに、今更この力で一族の再興など必要ない、と……まあ、父は言ってる」 「――ねえ、いつまでそうやって、しかつめらしく難しい話を続けるわけ?」 不服そうな声が振ってきたので、顔を上げたリュゼは目を見開く。 アリアが甘酸っぱい実を、リュゼの口の中に放りこんできたからだ。 「あそこに、チュイの実がたくさんなってたの。おいしい?」 少女は得意げに泉の左手を指さすと、 「はい、ハルにもあげる。あーんして」 二人の間に押し入るように割って入るや、もう一人の口にも実を押しこむ。 「おっ、うめえ」ハルは素直に目を輝かせた。 「でしょ?」 悪戯が成功したと言わんばかりに、アリアは笑う。 「けどなぁ、どこに行ったんだかと思っていたら木登りしてたのかよ、その格好で」 ハルは頬を指でかいた。アリアはひだのある長スカートのはしを腰の太帯にたくし入れ、袋状になったところにたくさん実を入れていた。
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