黄泉比良坂の関

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そういうわけで、僕は子鬼の女の子のあとをおそるおそるついていった。 この道を行けば生者の世へ戻れる、というが、どんなに目を凝らしてみても、僕たちの前には深い闇が広がっているばかりだ。なにが待ち受けているのか、さっぱりわからない。 不安しかない僕に、女の子が急に話しかけてきた。 「自己紹介をしておきましょう。私の名前は蜜。お兄さんのお名前は?」 「えっ? ああ、名前ね……。それが、わからないんだ。忘れてしまっているらしい。死にかけのせいかな」 「あれまぁ」 蜜は目を見開いた。 「お名前がわからないとなると、体探しは難しくなりますよ。本当に、頭文字でさえも思い出せませんか?」 「うーん……。ごめん、いまのところは無理だ」 「それは困りましたねぇ」 蜜は眉根を寄せた。 「お兄さんがお名前を忘れているのは、魂が強い衝撃を受けたせいかもしれません」 「はぁ、どういうこと?」 「つまりですね、お兄さんは精神的にものすごくショックな出来事を体験したかもしれない、ということです。……でも、具体的な原因は皆目見当もつきません。だからがんばってご自分でそのことを思い出すしかないんです」 といっても、本当に欠片も思い出せないのだ。なにかきっかけがあればまだいいのだが……。
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