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熱海駅のプラットホームに、東京駅の新幹線が滑り込んできた。
「絶対、真犯人を逮捕してくださいね」
新幹線の轟音に負けないよう、珠子は言った。
「当たり前だ。殺人事件の時効は撤廃された。絶対に、証拠を見つけてやるさ。時間はたっぷりあるんだ」
倉持はニヤリとして言った。珠子は小さく頷く。
「でも、意外と紳士なんですね。駅までの迎えに来て、ホームまで見送りに来てくれるなんて」
「お前は一言多いヤツだな。人の好意は、素直に受けるもんだぜ」
呆れたように笑顔でため息をついた倉持の脇を素通りして、珠子はガラガラとキャリーバッグを引いて歩き出した。
「水嶋珠子!」
倉持が大声で呼び、珠子は立ち止まる。振り返ろうとしたその背中に向かって、今度は微かな声が飛んできた。
「あの背負い投げの借り、絶対に返してやるからな!」
負けず嫌いね。
珠子は思わず噴き出した。でも、笑ったことがバレたらまた何か言われそうだったから、振り返らず、東京行き新幹線に乗り込んだ。
***
そんな二人を、ひそかに見つめる黒い影が一つ。
その存在に、珠子も倉持も、そのとき、気づくことはなかった――
―― Continue to episode Ⅱ ...
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