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熱――っ
危ない、と思ったときには、すでに遅かった。パリンッと音を立て、足元で湯呑みが弾ける。水嶋珠子はとっさに飛び退いた。
「おい、どうした?」
宮古武史が、給湯室の入り口から顔を出す。給湯室と大部屋を隔てる扉はなく、物音はすべて筒抜けなのだ。珠子は「ごめんなさい!」と頭を下げた。
「割っちゃいました」
珠子は恐る恐る顔を上げた。
「誰の湯呑みを割ったんだ?――って、俺のじゃねえか!」
宮古の表情が固まった。とっさに給湯室を飛び出した珠子の背中に、「おい、ミズタマ!」宮古の声が背中に突き刺さる。
「珠子です!」
反射的に言い返す。
「割れたのか」班長の相馬雄市が、穏やかな表情でほうきとちりとりを持っていた。
「気にしなくていいよ。割れるっていうのは、刑事にとっては縁起のいいことなんだよ。《ホシが割れる》って言ってね」
へえ、そうなんだ。「だからって、しょっちゅう割るんじゃないぞ?」安心しきった珠子に、相馬が釘を刺す。
「あの、ごめんなさい」
「言葉遣い!」と、給湯室から宮古が怒鳴る。
「すみませんでした」
珠子は俯いて、唇をかみしめて答えた。これカノジョに怒られる、と宮古は破片を見下ろし、頭を掻く。
「それより、珠子くん」相馬はほうきとちりとりを、珠子の手に押し付けた。
「きみに仕事。掃除が終わったら、すぐに熱海に向かってくれ」
仕事? 私に?
聞き返す前に、相馬は大きく伸びをして立ち去ってしまった。
珠子はやっと立ち上がって、ぱんぱんと服についたほこりを払う。
負けるもんか。
私、あの刑事さんみたいに、優しく強い刑事になるって決めたじゃない。
水嶋珠子、二十四歳。警視庁機動捜査隊、特捜零班――別名霊感捜査班に配属になって、一ヶ月。初めての出張任務だった。
それにしても、どうして私が選ばれたの――?
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