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倉持が大股に歩き出すと、背後からぱたぱたという軽い足音と、ガラガラというキャリーバッグの音がついてきた。
「じゃあ、まず港署に挨拶を」
「挨拶なんかいらねえ。捜査をするのは俺独りだ」
倉持は頭だけちょっと振り返って言う。「はるばる東京から他所の縄張り荒らしに出向いてきて、自分が歓迎されるとでも思ってるのか?」
水嶋珠子はムッとした様子を露に、唇をきゅっと結んでそっぽを向いた。
「私だって、来たくて来たんじゃありません。命令だから仕方なく――」
「何? いい身分だな。お前、所属は?」
「機動捜査隊、特捜零班です」
「ゼロ班――?」
「二ヶ月前に新設されたばかりの班です。任務は、主に機動捜査隊の初動捜査の応援です」
「へえ、補欠か」
倉持の言葉に、珠子はムッと頬を膨らませた。
「でも、殺人事件を解決したことだってあります」
へッと倉持は笑う。
「えらそうなこと言ってんじゃねえ。デカの仕事は、事件を解決することだ。できて当たり前のことを、自慢するんじゃねえよ」
倉持は構わず前を向いて進む。珠子は規則正しい足音でついてきた。倉持が止まれば彼女も止まる。一定の距離を保っているらしい。
駅の端にある駐車場の隅に停めたパジェロに乗り込んだ。珠子はキャリーバッグを抱えて、後部座席に乗り込んだ。予定通り、嫌ってくれたらしい。このままとっとと嫌気がさして帰ってくれればいい。
「じゃあ、とりあえず事件現場へ向かうぞ」
倉持は一つ舌打ちをし、「そうそう、お前、霊感があるらしいな」と言った。
「ええ、そうです」
「霊感捜査なんて邪道だ。それに、そんなもの当てになるのか」
「信じる、信じないはあなたの自由です」
珠子は口をへの字に尖らせた。「でも、今までの捜査方法では解決できない事件があるから、霊感捜査が導入されたんじゃないですか。現に、あなたがかつて担当したこの事件だって、未解決のままです。事件を解決するのは、刑事として当然なんでしょ!」
コイツ、言いやがるな。嫌われるだけのつもりが、完全に敵視されているらしい。すぐムキになるところもガキっぽい。まあいい、好戦的な奴ならこっちだって、徹底抗戦してやるだけだ。
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