Chapter.2-2

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Chapter.2-2

 熱海は、静岡県の海沿いに位置する温泉地だ。  街はどこも海に面する斜面になっていて、たいていの場所から太平洋を臨むことができる。夏に来れば心地よい潮風を受けることができるのだろうが、この時期の海風は、冷たいばかりだった。  温泉街らしく、温泉旅館やホテルが立ち並ぶ市街地を抜ける。  と、今度は山側に、ニュータウンが広がっていた。こんなところに住めたら、毎日、海が見られるのね。珠子がそんなことを考えていると、パジェロはゆっくりと減速し、朽ち果てた廃ビルの前で停車した。建築途中で放棄されたらしい、六階建てのビルを、錆びついた《安全第一》のフェンスが囲っている。バブル経済崩壊の遺産だろう、看板にある完成予定年度は九十年代前半だった。 《ねえ、あの女の子を知らない? おかっぱ頭の、白いワンピースの女の子なの。あの子は無事かしら――》 「ここだ」と倉持がサイドブレーキを引いた。珠子はさっさと降り立って、現場をぐるりと見回す。今、確かに聴こえた。 「事件発生は、十二年前の八月二十日。被害者の名前は秋山紗江。この廃ビルの前、安全第一のフェンスの内側に倒れていた。発見されたのは午前六時過ぎ。死因は腹部を鋭利な刃物で刺されたことによる出血死。――おい、聞いてるのか?」  倉持の言葉に、珠子は応えなかった。《あの子が心配なの――!》と必死な声が聴こえてくる。彼女の声だと、珠子は直感した。 「あの子って、誰?」  珠子は思わず尋ねる。倉持はぐっと眉をしかめて、「何だ?」と尋ねた。 「私、霊感があるんです。彼女の声が聴こえるんです」 「おい、お前いい加減に――」 《私の声、聴こえてるんでしょう?》 「聴こえてます。ねえ、あなたは秋山紗江さんでしょ? あの子って、誰なの?」  珠子は必死に言ったが、やはり彼女には届かない。彼女は、《あの子が心配なの》と繰り返すばかりだ。  倉持は大げさに肩をすくめた。煙草をくわえ、「霊感ねえ」と小さく口元を歪める。 「お前、被害者の声が聞こえるのか? 馬鹿らしい。そんな目に見えない不確かなもの、当てになるのか?」
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