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「それを捜査して、真実を解き明かすのが警察の仕事です」
珠子は必死になって、言った。「真実は死なないんです」
「いいや、警察の仕事は生きている人間が心地よく暮らせるように、悪人どもを片付けることだ。殺人犯、誘拐犯、強盗犯!」
「そういう悪人のいるところには、必ず被害者もいる!」
「お前、自惚れるのもいい加減にしろ!」
倉持はぐっと珠子の目の前に、顔を突き出してきた。「本当に、被害者を救えると思ってるのか?」
「どういう意味ですか?」
倉持の気迫に、珠子は思わず仰け反る。
「人間なんて、そう簡単に救えるもんじゃないってことだ。被害者は当然、救いを求めてくる。じゃあ、その被害者を救うために、他の誰かを傷つけてしまったとしたら、責任とれるのか!」
「だから、警察官になったんです」
珠子は強固な口調で返した。脳裏に、幼いころの記憶が過ぎる。あの日、私を助けてくれた、あの刑事さんのように、私は強い警察官になる。「すべての人を救う覚悟をもって――」
倉持の顔が真っ赤になったのを見て、とっさに殴られる、と思った。珠子は思わず目をつぶって頭を抱えたが、拳は飛んではこなかった。倉持の携帯電話が鳴って、張り詰めた空気が途切れたのだった。
「もしもし――解った。すぐ向かう」
踵を返した倉持の背中を追いながら、「何か事件ですか?」と珠子は尋ねた。
「コンビニ強盗だ。ホシは逃走中。現場が近いから、応援に行く。ガキはここで大人しくしてろ」
「私も、行きます」
珠子はパジェロの助手席に、強引に乗り込んだ。
「勝手にしろ。邪魔だけはするなよ!」
倉持が一気にアクセルを踏み込み、珠子はしたたかにシートに頭をぶつけたのだった。
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