Chapter.2-2

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「えっ?」と珠子は思わず大きな声を上げた。 「まあ、昔のことだがな」と鈴村はため息混じりに言う。「ある事件をきっかけに、そいつをウリにしなくなったのさ」 「ある事件って?」 「十三年前の事件だ。首吊り死体で見つかった女の霊が、自分は殺されたって主張したらしい。奴が、ガイシャからそう聞いたと言ったから、殺しの線で捜査をしたら有力な容疑者が浮かんだ。その女に振られたとかで、付きまとって嫌がらせをしていたストーカー野郎だった。アリバイはない、動機はあるってことで、すぐに引っ張った。そしたら結局、そいつは無罪だった」 「どういうことですか?」 「女の嘘だったのさ」と鈴村は倉持の背中を見つめながら、肩をすくめた。 「仕事に行き詰ったときに失恋して衝動的に自殺したが、突発的にやってしまったことを後悔して成仏できず、会話のできる倉持に嘘をついた。それをあいつは真に受けたんだ。顔に似合わず、お人好しだよなあ、あいつ」  鈴村の言い方にムッとして、「そんな言い方、失礼だと思います」と言った。倉持にも、そして被害者にも。  しかし、だから、倉持は目に見えるものしか信用できないと言ったんだ。 「あの、倉持さんって、今でも霊感が?」 「さあな。あいつにとって、あのヤマが最初で最後の霊感捜査だった。霊が見える、会話ができる。匂いも解る。できないことは触れることぐらいだったんじゃないか? そんなあいつが、いきなりヘマをやらかした。冤罪、誤認逮捕。県警はあいつ一人のせいで、大恥かかされたのさ。それ以来、県警では霊感捜査はタブーだ。あいつは所轄の港署に左遷。あのヤマがトラウマになって、霊感なんかなくなったって言ってたが」  いや、それは嘘だ。  倉持は、あの殺人現場で言っていた。《どうして彼女が、その女の子を探しているのか解らねえんだろ?》と。あのときはまだ、珠子は一言も探しているのが女の子だとは言っていなかった。にも関わらず倉持は、《女の子》と、間違いなく言ったのだ。  彼にはまだ、霊感が残っている。倉持はあのとき、秋山紗江の姿を見、そして彼女の言葉を聞いていたのだ。  珠子はパジェロにもたれかかって煙草をふかしている倉持につかつかと近づいた。 「話は終わったか。俺の悪評で、盛り上がってたのか」  背伸びをして、彼の頬を思いっきり引っぱたく。 「このガキ――」  鳩が豆鉄砲を食らったような倉持の表情が、怒りで真っ赤に染まっていく。「何しやがる!」倉持は煙草を吐き捨て、珠子の胸倉めがけて手を伸ばしてくる。珠子はとっさに体を翻しながら、倉持の腕と身体のわずかな隙間に潜り込んだ。倉持の身体を自分の背中に密着させ、彼の腕を引きながらその身体を背負う。元柔道オリンピック代表候補らしい、綺麗な背負い投げが決まり、倉持の身体がアスファルトに叩きつけられた。
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