Chapter.1-1

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 正面の巨大なディスプレイが、まず目に入ってきた。東京都内全域の地図が表示されており、そこにいくつもの青い光が移動している。これが捜査車両の現在位置。それから、赤い丸で表示されているのは、おそらく事件現場。そのディスプレイの前にはコンピュータが何台も置かれており、それぞれにオペレーターが一人ずつ付き、無線で指令を飛ばしていた。  大部屋にはその他、待機中らしい五、六人の刑事がいた。それぞれいつでも出動できるよう、防弾チョッキを着用し、拳銃を提げている。  何やら打ち合わせの最中だったようだが、珠子が入った途端、その場の空気が固まったのが解った。 「えっと、きみは?」  刑事の一人が歩み寄りながら尋ねてきた。いかにもやり手、という感じのする、鋭い目をした刑事だった。首から提げた身分証には、仲谷和希警部補とある。 「あの」珠子は辞令書を差し出す。 「今日からお世話になります。水嶋珠子巡査です!」  ダンボールを床に置き、ビシッと敬礼をする珠子。  仲谷警部補は辞令書をしげしげと眺めていたが、いきなり吹き出した。 「おい、お前、零班の新人じゃないか」 「ゼロ班――?」 「ほら」と辞令書を指さす。「ここに書いてあるだろ。特捜零班。これ、庁舎裏の第三駐車場に、別棟の本部があるから」 「ここじゃないんですか?」 「そうだよ。知らないのか? 零班は、一ヶ月前に新設されたばかりの部署だ」  ほら、行った行った。仲谷は、追い払うように手を振った。大部屋の刑事たちも、クスクスと笑っているのが聞こえた。なんだか釈然としないまま、珠子は大部屋を出て廊下をさらに進み、《第三駐車場》と書かれたドアを開ける。  外に出た途端、冷たい秋風が吹いて、落ち葉が転がった。 「えっと――ここ?」  庁舎の陰に隠れるように、山奥に放置された工事現場のような、ボロボロのプレハブ小屋があった。《機動捜査隊 特捜零班》という後付のプレートだけが、真新しく光っていた。
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