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本庁舎のような綺麗なドアではない、プレハブの引き戸。今度は緊張よりむしろ、不信感の方が強かった。
珠子が引き戸に手を書けた瞬間、その扉がガラリと開き、中から痩身の若い男が飛び出してきた。
「痛ぁっ」珠子は尻餅をつく。
「それはこっちの台詞だっての!」
男は言った。「で、きみ、誰?」
二十代後半だろうか。背が高く、スーツの着こなしもどこかスマートな印象だ。
「あ、本日付で機動捜査隊、特捜零班に配属――」
とっさに立ち上がって敬礼をする珠子を遮り、「ああ、きみがミズタマか」と男は言う。
「今日から配属の、水嶋珠子だろ? 略して、《ミズタマ》。俺、宮古武史。よろしく」
「その略し方、やめてください!」
学生時代から、散々それでいじめられたのだ。珠子の抗議を、宮古は完全にスルーする。
「じゃあ俺、ちょっと急いでるから」
「事件ですか! なら、私も一緒に――」
「いや、朝ごはん買ってくる」
朝ごはん?
駐車場を走り抜けていった宮古の背中を見送りながら、首を傾げる。
「そんなところに立ってないで、入ってきなさい」
背後からの声に振り返ると、四十代半ばくらいの、柔和な表情の男がそこに立って、手招きをしていた。「失礼します」と珠子は、やっぱりなんだか釈然としないまま、取り落としたダンボールを拾い上げて室内に入った。
学校の教室くらいの小さな部屋に、デスクが四つ。床も壁も天井も、なんだか薄汚れている。
なんか、イメージしていたのと違う。
「機捜のイメージとは違うだろうね」と、男は柔らかい笑顔で言った。
「私は零班の班長、相馬雄市警部です。よろしく」
「水嶋珠子です。よろしくお願いします」
珠子が深々と頭を下げる。
「きみ、刑事は初めて?」
「はい。警察学校を出て、交番勤務に就いて、それからいきなり、ここに配属になって。あの、どうして私が――?」
「まあ、それはおいおい解るよ」
相馬は言い、空いているデスクを指さす。「そこ、使って」
珠子はやっと、私物の入った段ボール箱を置いた。
「あの、他の班員の方は?」
「うん? あ、他のメンバーね。さっき出て行ったのが宮古武史巡査部長。それと、高樹春奈巡査部長。私と、きみ。合わせて四人」
「四人?」
「そうだよ。少数精鋭なんだよ」
相馬は笑った。釈然としないまま、珠子はデスクに、ダンボールを置く。
「あの、高樹巡査部長は、出動中ですか?」
「うん? ああ、彼女は自由行動。気にしないで、そのうちフラッと戻ってくるからさ」
「フラッと戻ってくるって、それって逆じゃないですか? 普通、フラッと出て行く、じゃないですか」
「彼女の場合は、そっちで正しいの。それより、水嶋くん。初日から大きなそのダンボール、何?」
珠子は思い出したように慌てて言った。
「えっと、豆大福です!」
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