Chapter.1-1

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 本庁舎のような綺麗なドアではない、プレハブの引き戸。今度は緊張よりむしろ、不信感の方が強かった。  珠子が引き戸に手を書けた瞬間、その扉がガラリと開き、中から痩身の若い男が飛び出してきた。 「痛ぁっ」珠子は尻餅をつく。 「それはこっちの台詞だっての!」  男は言った。「で、きみ、誰?」  二十代後半だろうか。背が高く、スーツの着こなしもどこかスマートな印象だ。 「あ、本日付で機動捜査隊、特捜零班に配属――」  とっさに立ち上がって敬礼をする珠子を遮り、「ああ、きみがミズタマか」と男は言う。 「今日から配属の、水嶋(みずしま)珠子(たまこ)だろ? 略して、《ミズタマ》。俺、宮古(みやこ)武史(たけし)。よろしく」 「その略し方、やめてください!」  学生時代から、散々それでいじめられたのだ。珠子の抗議を、宮古は完全にスルーする。 「じゃあ俺、ちょっと急いでるから」 「事件ですか! なら、私も一緒に――」 「いや、朝ごはん買ってくる」  朝ごはん?  駐車場を走り抜けていった宮古の背中を見送りながら、首を傾げる。 「そんなところに立ってないで、入ってきなさい」  背後からの声に振り返ると、四十代半ばくらいの、柔和な表情の男がそこに立って、手招きをしていた。「失礼します」と珠子は、やっぱりなんだか釈然としないまま、取り落としたダンボールを拾い上げて室内に入った。  学校の教室くらいの小さな部屋に、デスクが四つ。床も壁も天井も、なんだか薄汚れている。  なんか、イメージしていたのと違う。 「機捜のイメージとは違うだろうね」と、男は柔らかい笑顔で言った。 「私は零班の班長、相馬(そうま)雄市(ゆういち)警部です。よろしく」 「水嶋珠子です。よろしくお願いします」  珠子が深々と頭を下げる。 「きみ、刑事は初めて?」 「はい。警察学校を出て、交番勤務に就いて、それからいきなり、ここに配属になって。あの、どうして私が――?」 「まあ、それはおいおい解るよ」  相馬は言い、空いているデスクを指さす。「そこ、使って」  珠子はやっと、私物の入った段ボール箱を置いた。 「あの、他の班員の方は?」 「うん? あ、他のメンバーね。さっき出て行ったのが宮古武史巡査部長。それと、高樹春奈巡査部長。私と、きみ。合わせて四人」 「四人?」 「そうだよ。少数精鋭なんだよ」  相馬は笑った。釈然としないまま、珠子はデスクに、ダンボールを置く。 「あの、高樹巡査部長は、出動中ですか?」 「うん? ああ、彼女は自由行動。気にしないで、そのうちフラッと戻ってくるからさ」 「フラッと戻ってくるって、それって逆じゃないですか? 普通、フラッと出て行く、じゃないですか」 「彼女の場合は、そっちで正しいの。それより、水嶋くん。初日から大きなそのダンボール、何?」  珠子は思い出したように慌てて言った。 「えっと、豆大福です!」
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