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あっちむいてホイ②
優羽希はいつも優しい。あたしのわがままにもちゃんと付き合ってくれる♪
彼の名前の漢字はあたしにとっては割と難しかったけど、高校に入って根っからの理数系だと気付かされたあたしは必死こいて覚えた。
彼はもちろんそんな努力には気付いていないだろうけど、あたしはゆうきに対してだけは一所懸命なんだ。
ほら!一所懸命って頭の中ですぐ書ける程、漢字だって文法だって頑張ってる。
ゆうきはいつも優しい。今回の〝あっちむいてホイ〟だってワザと負けてくれてる。
あたし実は小さいころからの自分の癖を知ってる。
そう、あっちむいてホイをするとき、ジャンケンの形を出す前に作ってしまうのも、ホイってするとき眼が自然に差したい方に向くことも。
でも、その癖はもうとっくに直ってる。
家族や他の人とジャンケンとかあっちむいてホイをするときは、こんな子供みたいな真似はしない。
ゆうきの前でだけするのだ♪
彼とあたしが小さいころ、この変な癖を知ったあなたが、ジャンケンもあっちむいてホイもてんで弱かったあなたがあたしとだけ〝あっちむいてホイ〟をしたがるようになったのが嬉しかった♪
気を引けたって思ったの!
お陰でほら、大きくなってもいつも一緒に居られる仲になれたのだ。
この、ずっと隠してきた秘密をゆうきが知ったらどう思うだろう?ちょっとしたことだけれど、あたしが子供じゃなくなって大人に向かってドンドン成長していることを知ったら、おどろくかな?よろこぶかな?
引かないよね?
「じゃあ目を閉じて、あ~~~~~ん♪ってして♪」
「はいはい、あ~~~~~~ん…」
赤い液体が入った大きめのスプーンが彼の口に入っていき、静かに口を閉じた彼はそれを味わった。
「!!!!!!!!!!!」
「あはは♪タバスコだよ♪」
お腹を抱えて笑い転げるあたしの分の水まで飲み干して、真っ赤な顔をした涙目のあなたはあたしを睨んで、そしてつられて大笑いした。
それは、ちょっとしたあたしの悪戯。
いつもどこかであたしをちょっとばかりバカにして来るゆうきへの仕返し。
それは楽しくて仕方がないじゃれ合い。彼もあたしも同じようにじゃれつき合うのだ。
そして今日も明日も明後日も
ずっとずっと
俺たちは
あたしたちは
お互いに求め続け甘え続ける。
「でも、ゆうきくんに“好き”って言わせるのは、どうやったらいいんだろ?」
ドリンクバーで熱ささましに冷たいオレンジジュースを汲んでるゆうきくんの、割りと逞しい背中を見ながら、勝負、もうそろそろ決めたいあたしは、ため息をつきながら呟いていたのだ。
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