Trac05 Desperade/イーグルス

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ユウジはリビングのソファに腰掛け、俺は電子ピアノの前に座る。2人が定位置につき、ユウジが曲のリクエストをする。それがいつもの合図だ。 久しぶりに聞くユウジの音は前と同じように優しくてほっとした。角のない音の粒が弦からこぼれ落ちる。テンポを確かめながら音をぎこちなく重ね合わせていく。だんだんお互いの呼吸を思い出してきて、ハモリが綺麗に重なるようになってきた。曲が進むにつれ、俺とユウジの音が溶け合っていく。穏やかな音色に全身を包まれ、響き合ってできた和音が鼓膜を震わせ、いたるところで甘く響く。それがとても心地良くて、繋がってんだなって感じて嬉しくなる。音楽とセックスは、とてもよく似ていると思う。 そういえば、セックスを覚える前はユウジや店長達と音楽やってんのが1番楽しかった。 「ユウジ、」 伴奏する手を止めると、ユウジはこっちを見た。 「やっぱり、俺はセックスよりユウジと演ってる方が楽しい」 頬が勝手に上がって、にやけるのを止められない。ユウジは「え」とも「へ」ともつかない変な音を喉から出した。それから瞬きが増えて、視線をあちこちに彷徨わせている。 「・・・なんでもない」 笑いを噛み殺しながら寝室に戻れば、カホがうっすらと目を開けた。やべ、起こしちまった。 カホはふにゃふにゃと 「きれいだねぇ・・・」 と笑った。 「きれいな音だねえ」 っていいながら目蓋が落ちていって、また寝息を立て始める。 次の日は、目覚めたカホはぐずらず機嫌よく起きてきて、「おはよう」と声をかけてきたユウジは穏やかな顔つきだった。視線を弾き返すような壁はもう感じない。ユウジとのいつもの毎日が戻ってきた。
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