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それから、カホは俺とユウジの演奏を度々聴きたがるようになった。俺としてはユウジと2人きりがよかったけど、ユウジが凄く嬉しそうにしていたから好きなようにさせてた。
夏休み中に引っ越す予定だったから、梅雨入りとともにバタバタし始める。演奏する時間もなくなってきて、すぐ引越しの日が来た。
その日は快晴だった。
新幹線で県を一つ跨いで、町並みの向こうにうっすら山が見えるような地方都市に到着する。
前住んでいたとこより階数も部屋の数も小さなマンションだけど、セキュリティがしっかりしていて玄関に各部屋に繋がるモニターが設置してある。
今日は管理人に声を掛けて部屋を開けてもらった。
まだ家具が届いていない部屋はだだっ広くて、フローリングの床が窓から入る日差しを白く照り返していた。そこをカホがパタパタと駆け回る。
音が反響して、今ここでギターやピアノ弾いたらいい音が出そうだ。
あれ?そういえばーーー
引越しの業者から荷物が届いて、それを広げている時確信した。やっぱり、ユウジのアコースティックギターがない。
「ユウジ、ギターは?」
「置いてきた」
「はあ?!」
マジかよコイツ。俺だけじゃなくて音楽まで置き去りにする気かよ。
ユウジはダンボールから食器を出しながら
「ここ、あんまり防音がちゃんとしてないし。それに、向こうに行った時お前と演れるしな」
なんて穏やかな笑みを向けてくる。
「壊すなよ、俺の宝物なんだから」
悪戯っぽく顔をくしゃっとするユウジに、もう何も言えなくなっちまった。
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