Trac05 Desperade/イーグルス

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カホとユウジの荷解きが終わったのは夕方で、メシは近所のファミレスで食べて駅まで見送られた。 あっけないもんで、カホはニコニコしながら「ハジメちゃんバイバイ」って手を振ってた。 自分のとこのマンションに戻れば、ひと回り小さくなった冷蔵庫とダイニングテーブルがリビングを広く見せていた。テレビもそこかしこに散らばっていた玩具も無くなって、なのにカホが遊んでいた姿がふっと目に浮かぶ。 寝室には1人分の布団しかなくて、部屋の隅で畳まれている。明日から多分敷きっぱなしになるな、なんて考えながら広げていたら、スタンドに立てられたアコースティックギターが目に入った。 マジで置いていきやがって。 黄色いニスが塗られたボディに指先が引き寄せられた。木の温かみを感じて、少し心が和らぐ気がする。俺の宝物なんだからってユウジの言葉を思い出す。それを、俺に預けていったんだな。 表の板にうっすら俺の影が映って、胸のあたりでサウンドホールがぽっかり穴を開けている。 それを見ていたら、無性にピアノが弾きたくなってきた。ひたすら指を動かして、音を耳に詰め込んで、脳を音楽で満たしていく。 目がだるくなって、眠くなって指が動かなくなるころには空が白み始めていた。まだどこかで音が鳴っているような感じがする。でも、これでいい。 立ち上がると腰も手首も鈍く傷んだ。窓を開ければ冷たく澄んだ空気が入ってくる。一晩中かき鳴らした音たちの残響は、みるみるうちに消えていった。 俺はまた、静かになった部屋に取り残されていた。
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