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心臓が、まだバクバクしている。休まず走りっぱなしだったし、リアルに死ぬかと思ったし、
ユウジに、抱き留められているし。
俺の足が止まった瞬間、ユウジが手を伸ばして俺をガードレールの内側に引っ張り込んだ。
ユウジの心臓も激しく動いているのが分かるくらい、強く抱きしめられている。
「お前は馬鹿か・・・!?」
ユウジは絞り出すように呻いた。腕は、まだ解かれない。
「お前まで、ユカリみたいになっちまったらどうすんだよ」
ユウジの声も、腕も震えていた。
「ラインも電話も無視しやがって。お前みたいなヤツでも、急にいなくなられたら堪えるんだよ」
そこで、俺はやっと「ごめん」って言えた。
姉ちゃんは、育休が明けてすぐ海外に出張に行って事故に巻き込まれて死んでしまった。身近な人間がある時突然居なくなってしまった衝撃と悲しみが、まだユウジの中にトラウマとして残っていたんだと初めて気づいた。
悪いことしたな。いくらユウジが連絡しても無視してた。それがユウジにとってめちゃくちゃ不安を煽りまくってたらしい。
もしかしたら、俺はそれほどユウジに嫌われてなかったのかもしれない。恐る恐る、腕を持ち上げて、ユウジの背中に回そうとした。
その瞬間、ユウジは盛大に溜息を吐いて、俺から離れた。ほっとしたような、残念なような気持ちだ。放り出した紙袋とその中身を拾い集める背中を見つめる。
「ユウジ、」
名前を呼んだはいいけど、ユウジがこっちを向いたら何を言ったらいいか分からなくなってしまった。だから、1番言いたかったことだけ伝えた。
「好きだ」
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