77人が本棚に入れています
本棚に追加
「マジで帰るの?」
「ああ、カホを迎えに行かないと」
ギターをスタンドに掛けて、ユウジは押し入れに、ん?それってもしかして
「ユウジが使ってたやつ?」
ユウジが取り出したのは、黒いギターケースだった。フタを開ければ青いボディが明かりを反射し、オレはまだやれるぜとばかりにピカピカ光って主張する。ユウジがバンドで弾いていたエレキギターだ。
「ちょっと生活が落ち着いてきたし、スタジオも見つけちゃってさ。
できたら、先輩達やお前と演奏もしたい。
プロを目指すわけじゃないけど、また音楽やりたいんだ」
「いいと思う。てかやりたい」
「やっぱお前も、音楽が好きで続けてきたんだろ」
ユウジは無邪気な笑顔を見せる。ギターケースを担いで立ち上がる。メンテは自分でやりたいらしい。
「また来るよ。今度はカホも連れてくる」
「別にいい」
「俺が来たいんだよ。ユカリとお前のうちだしな」
「・・・わかったよ」
ユウジのことを無理矢理忘れるのは、もうやめよう。この調子じゃ無理っぽい。
マドンナの歌みたいに、気長に"悲しみが海へ流れるのを待つ"しかなさそうだ。
仕事をして、ピアノを弾いて、好きな曲を聞いて、たまにセックスして。
よくよく考えれば、中々悪くない生活だった。
WALKMAN3rd end
最初のコメントを投稿しよう!