さおりの存在

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俺に好きだと言ってキスをしてくれた あの駅でのさおりの気持ちが本当だったのなら なぜ一緒になるのが兄ではなく自分じゃ無かったのか 俺が若すぎたからなのか? それにしても、よりにもよってなぜ俺の兄を選んだ さおりの裏切りの様な決断は俺を苦しめた 何日も苦しんだあと俺は兄とさおりとの関係を絶つことにした そう思うことでやるせない気持ちに踏ん切りをつけたのだ だがそんな兄から突然、挨拶状が届いた 父の墓参りから帰って 3ヶ月経った正月の3日のことだった 年賀状に今まで音信不通だった侘びの言葉と さおりと結婚し子供を儲けたことの報告が書かれていた 何を今更2年以上も経って・・・ 家族写真の年賀状で無かったことは流石に 無神経な兄でも気を使ったのだろう 住所は静岡の山奥の町だった 夫婦で小さな文具店を営んでいるらしい そうか、もうすっかり幸せな家庭を築いているのか それならもう思うことも無い そのハガキをきっかけに俺は暫く、 日本を離れるつもりで旅に出た 全ての思い出を忘れたかった シルクロードをヒッチハイクしながら いろんな景色に出会い、多くの人々と接した カメラから覗く異国の景色は俺を夢中にさせ いつしか、風景写真家として作品が認められるまでになっていた
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