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その夢はさおりが故郷からいなくなった直後から
体調が優れなくなると必ず見る夢だった
白い霧の奥から
俺を呼ぶ声が聞こえる
「慧ちゃん、どこ?」
その声はか細く今にも泣き出しそうだ
そして霧の中から少女が現れる
初めて会った時のさおりの面影があった
さお?
こっちだ
俺はここに居るよ
手を伸ばしてもなかなか、さおりに手が届かない
少女は諦めた顔でまた霧の中に消えてしまう
トントンと肩を叩かれ俺は夢から覚めた
周りを見ると乗客達が座席上の収納棚から荷物を取り
降りる準備をしている
俺を起こしてくれた隣の老婦人が心配顔で俺を覗いていた
「ちょっとあなた大丈夫
ずっとうなされていたわよ」
「あ、すみません
悪い夢を見ていて・・・」
俺は老婦人の荷物と自分の荷物を棚から降ろすと
老婦人に挨拶してからタラップを降り久しぶりの日本の地を踏んだ
さおりが入院している
静岡のK市にある市民病院
新幹線に乗り継ぎ
俺が病院に着いたのは夜の6時を過ぎていた
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