さおりの存在

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受付に行くとさおりの元マネージャーが待っていた 「わざわざフランスからすみません」 香坂と名乗る元マネージャーは申し訳なさそうに 頭を下げる 「いえ、私の兄の家族のことなので  反対に身内でない香坂さんにいろいろと  動いていただいたようでお礼の言葉もありません  ご迷惑を掛けてしまいすみませんでした」 「いえいえ、私とさおりは一心同体のような間柄ですので  そんなお気遣いはいりません」 直ぐに俺はさおりが居る霊安室に向かった 通された部屋の寝台にさおりが居た 顔には白い布が被せられている さお、間に合わなくてごめん・・・ ショックで声の出ない俺に香坂さんは静かに言った 「慧斗さんが来るまではと  ずっと頑張って居たのですが  昨日の昼、静かに息を引き取りました」 俺は寝台の横に立ち そっとさおりの顔に掛けられた布を外す ホームで別れてから15年経ったのに 死化粧を施されたその顔は あの時の美しさのままのさおりだった 孤児として生まれ親の顔も知らず施設で育てられた18年 女優で成功したのも束の間2年で引退した 兄と結婚し子供が生まれやっと手にした家庭も12年で終わってしまった さおり、君は幸せだったのかい? あまりにも儚いさおりの人生に俺は涙が溢れて止まらなかった
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