慧斗叔父さん

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慧斗叔父さん

翌日の夕方、父の弟の慧斗叔父さんが病院に着いた 叔父さんは、霊安室に安置された母を見ると 涙を見せ声を出さずに泣いていた その様子を見ていた香坂さんが そっと叔父さんに耳打ちすると 叔父さんは香坂さんと一緒に霊安室を出て 話をするために病院のロビーに向かって歩いて行ってしまった 私は放心状態で金物屋のおばちゃんに寄り掛かり 霊安室前の椅子に座っていた 30分くらい経った頃、叔父さんは香坂さんと戻って来た 香坂さんが私を椅子から立たせ 「慧斗さん、この子が瑞姫ちゃんです  よろしくお願いします」 と言うと慧斗叔父さんの前に私を押し出した 叔父さんは私を見ると一瞬目を見開いた でも直ぐに表情を戻し笑顔を見せた 「初めまして、瑞姫ちゃん  私は君のお父さんの弟の寺島慧斗です  今日から、君は叔父さんと一緒に暮らすことになったんだよ  よろしくね」 慧斗叔父さんは優しい眼差しで私を見つめ 握手の手を私に差し出した 初めて見る慧斗叔父さんは大きくて、若くて お父さんの弟とは思えないくらいカッコ良かった 何より握られた手が暖かく、 霊安室で冷たくなった私の手が 一瞬で温かさを取り戻した 握手をしながら香坂さんを見ると 嬉しそうに何度も頷いている お母さんが言った 『慧ちゃんはお父さんの様にとても優しくて頼りになる叔父さんよ』 その言葉が蘇った 私は一人ぼっちじゃ無い。 「よろしくお願いします」 震える声でやっと言うと慧斗叔父さんは 「もう心配はいらないからね」 ともう一度私の手をぎゅっと握ってくれた
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