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そんな俺の呆れた心など全く構わず、金属製の小さいおっさんこと時計の魔人は大仰な身振りと共に高らかに言った。
「さあさご主人、望みたまえ何なりと」
「じゃあ大金」
「ふむ、具体的には? 一兆円ほどあればよいか?」
「……充分だけど」
寧ろさらっと提示した額が大きすぎて怖い。
「受理した。では調達……の前に、断りを入れさせてくれたまえ、ご主人」
「断り?」
「さよう。最近は魔人の間でもコンプライアンスがどうとか煩くてな。人間に対してペテンを働くことはまかりならんという事になりつつあるのだ。昔はいかにして願いを曲解し、人間をペテンにかけるかで競ったものだが。まあ時代だな。幸い私は時代にアジャストする主義だ」
そう言って、魔人はどこにしまってあったのか分厚い紙束を取り出してぺらぺらとめくり始めた。
「ええと、物品の調達についての断りはどこだったかな……」
断りというのは、どうやら注意事項のことらしい。
「ああ、これだ。えへん……甲は願う側、乙は願いをかなえる側。この場合は、甲がご主人、乙が私という事になるな。世界の安定という観点から、乙は無から有を生み出すことは許されない。甲の望んだものを与える場合、その物がある場所から持ってくることとする。その結果、甲にとって重大な不利益が発生する場合があるが乙は関知しないものとする。依頼受理後の取り止めは可能。その場合、乙は甲の提示した新たなる望みとして数えてはならないものとする」
「……つまり? どっかからパクってくるという事?」
「そうなるな。そして、その結果ご主人は犯罪者として罪に問われる可能性はある。後、組織の殺し屋に狙われる可能性もある。然るべき公的機関の手入れがあった場合、莫大な追徴課税……」
「ごめん、大金は止める」
「懸命だ」
これはなかなか面倒くさい。
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