肉じゃがの行方

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 しばし考えて一つ思い付いた。 「昨日の晩、うちの部屋に侵入した奴を連れて来てよ」 「なるほど、受理した。お安い御用だ。むんっ……」  おっさんは両手を上げ、くるりとその場で一回転した。  一分経過しても特に何も変化は起こらない。 「……いないようだぞ」 「そんなバカな。だって、俺の部屋から肉じゃがが消えたんだ。絶対盗んだ奴がいるはずだよ」 「なんと……。母の味を奪われたのか。それは大いに同情するぞご主人。許し難い輩がいるものだ」  だが、そんな奴はいないとおっさんは言う。しばし考えて、侵入せずに持って行ったパターンに思い至った。 「なる程、あり得るな」 「だろ、だから言い方を変える。俺の肉じゃがを盗んだ犯人を連れて来てくれ」 「聡明なご主人に感服せざるを得ない。良いだろう。私も渾身の力を振るうとしよう。むぅん!!」  おっさんは両手を上げ、勢いをつけて二回転した。  二分経過しても、結局変化は起こらなかった。 「おい……」 「ふむ、これまたどうやらいないようだぞご主人」 「いやいや、実際消えてるのに……」 「ひょっとすると、私より上位の魔人が関わっているのかもしれない」 「は?」  何を言い出すんだ、おっさん。 「そうすると、私の力は一方的に打ち消されてしまうのだ。最近、知り合いに古いランプを手に入れた者はいないか、ご主人」 「いや、知らない。とにかく、肉じゃがだけでも取り返してくれよ」 「なるほど……それならば行けるかもしれん。受理したぞ、ご主人。むん」  おっさんは両手を上に挙げ、くるっと一回りした。  するとどうだろう。その挙げた両手の上に見覚えのあるタッパーが現れたではないか。 「これだな」 「お、おお。それだ。どこにあった?」  手に取り、蓋を開けてみると昨日食べかけたままの、まさに覚えのある肉じゃがが入っていた。  心の中に広がる安堵感。  だが、次に魔人が放った一言により、平穏を取り戻したはずの俺の心は、再びざわつき始めた。 「昨日の冷蔵庫の中だ」 「ん?」 「誰かに盗まれる前に確保したのだよご主人。機転を利かせた、という奴だ。いかに上位の魔人であっても、先んじてしまえばこの通りだ」 「……なる……ほど?」  なんか変だ。  しっくりこない。 「魔人の力をもってすれば、時ぐらい越える事など容易いのだよご主人」 「時を越えた……肉じゃが」  凄いような大した事無いような。
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