肉じゃがの行方

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 静かになった部屋の中。  もやもやを胸に抱えたまま、ひとまず残った肉じゃがを器に入れ、電子レンジで温め始めた。  ヴォーンという小さな音を聞いていると、俺の中にあったもやもやにくっきりとした輪郭が見えてきた。違和感の正体はこれだ。 「……こいつじゃん」  床に転がる目覚まし時計を引っ掴む。 「お前じゃないか、犯人は!!」  冷蔵庫に入れた直後の肉じゃがを魔人の力で持って行ったのだ。  誰かに奪われる前に確保したんじゃない。おっさんが確保したから肉じゃがは消えたんだ。  犯人を連れて来いと願った時、誰も現れなかったのは当たり前だ。  犯人は、最初からこの部屋にいた。目の前にいたのだ。 「おい魔人っ!! もっかい出て来い。こんなの詐欺だ!! ペテンだ!!」  俺は目覚まし時計を揺すぶったり叩いたりした。  机の角にぶつけたりもしたが、目覚まし時計はうんともすんとも言わなかった。 「くそ、こいつめ。起きろっ!!」  ゼンマイを巻き上げ、目覚ましもすぐに鳴るよう針を八時に合わせる。  だがベルは鳴らず、秒針すらピクリとも動かなかった。 「このインチキ野郎がっ!!」  腹立ちまぎれに思い切り投げつけた目覚ましは、真っ直ぐ壁に飛んでいって、壁に激突。管理会社への言い訳に困るレベルの大きなへこみをつけた。だが、それだけだった。目覚まし時計は、めり込んだ壁からゆっくりとはがれ、そのまま床に転がった。  それを見つめながら、俺の胸には後悔の念が大きな渦を巻いていた。 「もっとあっただろ……なんかさぁ」  なぜ俺は肉じゃがに拘ってしまったんだ……。  その時、電子レンジが温め終わりを告げる甲高い音を鳴らした。 「とにかく食べるか」  独り言で自分を説得し、時計はそのままに振り返る。  そこには湯気の立つ肉じゃがの器を持った、アラブ風のおっさんが立っていた。 「フォフォフォ……私は電子レンジの魔人。ご主人殿が二万回目の温めをしてくれたおかげでこうして出てくることができた。さあ三つの願いを……」
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