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二年ほど前に亡くなったうちの爺さんには、ガラクタの収集癖という厄介な癖があった。
蚤の市なんかに行って、得意満面で調達して来てはお袋に怒られ、拗ねて部屋にこもるまでがワンセット。俺は確かに爺ちゃんが好きで、よく部屋に遊びに行っていた。ガラクタの数々を見せてくれるのも楽しかったし。なんせ面白い逸話がくっついているのだ。爺さんはそう言う曰く付きが好きだった。
「見ろ、魔法の絨毯だ。昔は飛べていた。今は草臥れちまって、風を捕まえられないらしいけどな」
「こいつはあの文豪が使っていた万年筆だ。ひょっとすると、途中で終わっているあの遺作の続きを書けるかもしれん」
「例のアスリートが子供時代に占めていたハチマキらしい」
「これぞまさしく、件の彫刻家があのビーナスを掘る時に使ったノミとハンマーだ」
「魔法の目覚まし時計だ。何か起こるかもしれん」
「真の魔術書とはこれのことだ。残りは全部偽物」
とまあ、こんな調子で話す爺さんは楽しそうだったし、そんな話を聞きに行くのも大好きだった。
爺さんの部屋に入り浸りになって行ったのも、ごく自然な流れだと思う。
大学進学を機に俺は一人暮らしを始め、そのまま家には戻らず就職をした。
それでも、たまに帰った時には、その度に増えている爺さんのコレクションの話を聞くのは欠かさなかった。
「ワシが死んだら、ここにあるもんは好きに持ってって良いからな」
いつだったか爺さんがボソッとそんな事を言った。
そんな事、真剣に考えたくなかったから、まだまだだよと流した。
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