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ジリリリリリリ、とけたたましい音が押入れから響いてきた。
「うわ、わ、何だよ」
予想だにしていなかった音に慌てる。
だが、すぐに目覚まし時計だと思い当たった。
昨日、弄り回しているときにうっかり目覚ましを予約してしまったのだろうか。
止めようと押入れに入っている畳んだ蒲団の隙間に手を突っ込んだ。
指先に触れる固い感触。それを掴んで引っ張り出す。出してみると、音はさらに大きかった。ぶるぶると時計本体まで震えている。
「ええと、どうやって止めるんだ……」
と、裏返したところで時計本体がひときわ大きく震えた。
「うわっ」
思わず時計を投げ出してしまう。そのまま物理法則に従って落下していく中で、異変は起こった。
まず、空中でぼんっと音を立てて小さく爆発した。
壊れた、と思ったらそうではなかった。
金属製の重たい時計は、胸に文字盤と針を持った、全長三十センチぐらいの金属製のおっさんに姿を変えて軽やかに着地したのだ。
「やあやあ、ご主人。初めまして!!」
メタリックな輝きの口髭を蓄え、いかにもメタリックダンディという出で立ちのおっさんは、片手をあげて俺に軽やかな挨拶をしてくれた。
「……誰?」
意味が分からなさ過ぎて、そう尋ねるのが精一杯。
「御覧の通り、私は時計の魔人だ。ご主人がちょうど一万回目のベルを鳴らしてくれたおかげで、こうして出てくることができた」
「ごめん、見ての通りが分からない」
「まあ、こうして意思疎通を見事こなしているところが魔人の証と言えるね。さあ、本題に入ろうか」
小さいおっさんは金属質なキイキイいう声をしていた。
そして、どうやらせっかちさんである。
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