よん

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

よん

 テーブルの上にはコンビニの弁当がのっている。  だが、トナカイの姿の涼子には箸が持てない。 「……床に置いてもらってもいい?」 「大丈夫?」 「うん」  お腹を空かせていたが、外で食べるわけにもいかず、ナルミの提案で、彼女の家でご飯を食べることになった。  悪いと思いながら、コンビニでお弁当を買ってもらい、レンジで温めるまではよかった。  トナカイの涼子は少し悲しくなりながら、犬のように床に置かれたお弁当を食べている。最初は恐る恐るだが、一口食べると止まらなくなり、がつがつと食べ続けた。  はっと気が付いて、顔をあげるとナルミが凝視していて、涼子はあまりの恥ずかしさにいなくなってしまいたくなった。 「み、見てないから。うん。さあ、私も食べよう」  明らかに嘘くさく言いながら、ナルミはテーブルに置かれたコンビニ弁当を食べ始めた。  ナルミのマンションはセキュリティーのしっかりした高級感漂うものだった。一階には警備員がいて、エレベーターのパネルにカードを読み取らせると、自動的に彼女の部屋のある階を表示し、停止してくれるハイテク溢れるマンション。  不釣り合いのコンビニの袋を手に、彼女は涼子を気にしながらエレベーターを降りて、部屋の前に到着する。  そこでもカードを差し込むと、扉が開く形式だった。  マンションというよりもホテルという言い方がしっくりとくる。  部屋は洋式で、床は木製のフローリング。ソファは布製、カーテンも同色クリーム色で、飾りっけのない部屋だった。  台所、リビングルーム、寝室、ユニットバスの作りで、涼子は緊張しながら、部屋に入った。  コンビニ弁当の香りと食欲に負けてがつがつと食べてしまったが、涼子は食べ散らかしてないか床を確認する。いわゆる犬食いであったが容器以外は汚れておらずほっとした。 「何か飲む?器にいれればいいよね?」 「うん。ありがとう」  あの食べ方まで見られたのだから、涼子に遠慮はなくなっていた。その分、ナルミの願いを叶えなければと使命感に燃える。 (容姿も整っているし、頭もよさそうだし、家もすごい立派だし。願いってなんだろう?) 「麦茶にしたよ。熱いものだめそうだから」 「ありがとう」  器を床に置くナルミを涼子は見上げる。 「あのさあ、願いって何?」 「ああ。それね。叶えないといけないもんね。ははは」  ナルミはどうも胡麻化そうとするように笑った。 「私が叶えられそうなものって、まったく想像がつかないんだけど」 「うーん。私もわからない。そうやって叶えるもんでもないんだけど。でも叶えないと元に戻れないんだよね」 「うん。そう。だから、教えてください」  涼子は麦茶の入った器から口を離し、姿勢をあらためてナルミを仰ぐ。 「私の願いは、友達ができることなのよ」 「え?そんな簡単じゃ。っていうか小原さん、友達いたじゃない」  あまり把握していないが、ナルミは涼子と違ってクラスで浮いた存在ではなかった。  反射的にそう答えてしまい、後悔する。  思った通り、ナルミは眉を潜めて涼子を凝視している。 「リョウ……なんで。そういえば、クラスメートに……」 (あ、うわ。やっちゃった)  ナルミの表情が徐々に変わっていく。  それが見たくなくて、涼子は俯いてしまった。 「名前はリョウ、女の子、17歳……。もしかして、あなた、柱木涼子さん?」 (ばれてしまった。わかるよね。声変わってないし)  恐る恐る顔を上げると、ナルミは腰を落として、刺すように涼子を見ていた。   (怒ってる?やばい。どうしよう) 「答えないってことは、正解ってことね」  ナルミは黙ったままの涼子に興味を失ったように再び立ち上る。 (やっぱり怒ってる?!どうしよう。こんなんじゃ、願いをかなえるなんて無理。友達なんてなれるわけがない!)  動揺する涼子を尻目に、ナルミはリビングルームからいなくなってしまった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!