マリーゴールド

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雨の匂いがする 目を開けて窓の外を見ると空は暗い灰色で 遠くの雷の音が聞こえた 女は隣で寝ている男に寄りこう呟いた 「愛してる」 男は決して女に愛してるとは言わない 単に男が寝ているからでは無い 男には妻子がいた 女とは身体だけの関係だった 女もそれは分かっていた しかし女は気がつけば 男を愛してしまっていた 狂わしいほどのその愛は 女の心を苦しめていた 男に妻がいなければ 男に子供がいなければ 男の家族への憎しみは 日に日に積み重なっていった 女は男のことを 忘れられさせてくれる程の人が居ないかと 街を歩いていた 女は見てしまった 男が妻と子供の3人で 女には見せたことの無い笑顔で レストランの中に入っていくのを 分かっているつもりだった しかし実は男は自分を愛していて 妻とはいずれ別れてくれるのではないかと 心のどこかで密かに思っていた 誰にも助けを求めることが出来ない悲しみが 女を襲った 女は男に連絡をした もう最後にしましょう 最後に会いたいと 女は最後のデートに山を選んだ 山の山頂で男と景色を見たら自分の心は救われるのではないかと少しながら思ったのだ 男は妻を愛していた 男の笑顔の横にいたのは自分ではなく男の妻だった なぜ女を抱いたのか 女には分からなかった ただ女を嫉妬と悲しみが襲う そんな女の横で 男は平然としていた その目には女の姿など写ってはいなかった 話しかけてもどことなく目が合わない 頂上とは少し遠い薄暗い森の奥に入ると 女は男に携帯のメールアドレスや電話番号などを消すように言うと少し俯いた 男はそれを了承しすぐに消した 女は男に今までの感謝を伝えると立ち去ろうと 来た道の方に体を向けた すると男は言った 「…寂しくなるなぁ…君は僕の花だったのに」 女は振り返ると隠し持っていたナイフで男を刺した 男はあんなに幸せそうな場面を女に見せながら 寂しくなるといった あんなに男を笑顔にしていた妻がいながら 自分を花といった 男に嘘で慰められるのが許せなかった 何度も何度も男を刺した 涙なんて出なかった ただ行き場のない怒りが女にナイフを握らせた 女は男を土の中に埋めた 埋め終わり車に戻ると女は涙を流した 女は男を愛していたのだ 深く戻って来れないほど ふと思い出した 男には妻がいる子供もいる 妻は男が家に帰らないと心配するだろう 男はもう家には帰れないが 妻たちは男の元に来れる 女は妻を呼び出した 妻と子供が来たことを確認すると 女は男と同様ナイフで刺した 子供にもナイフで 女は妻を見て その場に留まって居られなくなってしまった 男が愛した妻 自分には向けられなかったその愛を 彼女は受けていた それも当然のように 女は妻と子供を埋め終わると 埋めた土の上に1本のマリーゴールドを置いた すると女は自ら警察署に向かい 自首をした 警察が尋ねた なぜマリーゴールドを置いたのか 女は応えた 「私マリーゴールド好きなの」 すると警察にこう尋ねた 「マリーゴールドの花言葉って知ってる?」 警察は首を横に振った 「花言葉はね… 絶望・悲哀・嫉妬 私にピッタリでしょう?」 女は警察ににこりと美しくも恐ろしい笑顔を向けた しかし 一瞬だけ 警察にはその笑顔が ただ純粋に男を愛した女の顔に見えた
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