第一章

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端野と明日香が旧交を温めていると、整備工場から社長の立田瞳(たつだひとみ)が出て来た。 同級生が二人、お得意様が二人の三人が、工場前で歓談していた。 瞳は情況が掴めなかった。 どういう取り合わせ? そう思った。 「あ、姉御(あねご)!」 明日香は、車を観てもらいに来たことなどすっかり忘れていた。 ミニ同窓会気分だった。 「他のお客様の前で、その呼び方は止めろ」 瞳は目を細めて睨む素振りを見せた。 全然怖くない。 「あの、今日は、車のことではなくて、お客様をお送りする途中に立ち寄りました」 桜は運転席のドアを静かに閉じた。 「あ、私は車を観てもらおうと思って…」 明日香はやっと思い出した。 「俺は、タクシーに乗ってたら、前に小此木の車が走ってて、付いて来たらここで停まって…」 端野が経緯(いきさつ)を掻い摘んだ。 「瞳、端野」 明日香が差し示した。 「知ってる。同級生だから」 瞳は、端野に向けて笑顔を作ろうとしたが、口元が錆び付いたようだった。 上手くいかない。 「端野、立田瞳」 明日香は瞳を抱き寄せた。 油の臭いがした。 「知ってる。同級生だから」 端野はニヤリとした。 「本当に?」 瞳は端野の言葉が信じられなかった。 「そこ気になるんだ?」 明日香が揚げ足を取った。 「別に…」 瞳は軽く明日香を突き放した。 「同じクラスにはなったことなかったけど、目立ってたから…」 端野が真面目にフォローした。 「確かに、目立ってた…」 明日香が吹き出した。 「それより、明日香の車…」 瞳が話を逸らした。 「ああ、何だかエンジンの調子が悪くて…」 明日香は車の鍵を瞳に渡した。 「じゃ、観とくから、端野君と遠野さんの車で消えな」 瞳はまた目を細めて見せた。 「ひっどーい」 明日香が端野に訴えるように視線を送った。 瞳はさっさと軽トラに乗り込んだ。 「じゃ、店まで送るよ」 端野は手招きした。 「車は店まで届けるから…」 瞳の声が窓から響いた。 軽トラがバックで工場へと吸い込まれた。
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