第一章

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今日は長い間お付き合い下さり、ありがとうございました。 端野は、中学から千住の駅に向かう車の後部座席から、桜に声を掛けた。 既に太陽は西に傾いた。 桜は、運転手に徹して、お喋りは封印していた。 端野が訳有りなのは、娘に言われるまでもなく察していた。 しばらく、またこの街で暮らしてみようと思います。 はい。 ありがとうございます。 今日一日で自分が何を求めて帰って来たのかが分かりました。 もし、準備ができて、この街に戻って来たら、遠野さんに声をお掛けしていいですか? ありがとうございます。 あの、小此木に聞こうと思ったんだですが、同級生だと逆に何だか恥ずかしくて… 一つ、相談に乗っていただけないでしょうか? いえ、そんなことは… ありがとうございます。 それでは、お言葉に甘えて… 私は、その、立田瞳さんと、あの、できれば親交を深めたいんですが、どうしたらいいでしょうか? 中学時代は、ほとんど交流が無くて… 小此木とはずっと同じクラスでしたから… はい。 一つしか無い? はい。 構いません。 遠野さんの作戦に乗ります。 なるほど… はい、もちろん… 当ては… 残念ながらありません。 走ること以外何もして来ませんでしたから… え? はい? 51…? 立田さんの憧れ? はい。 お金は… はい。 ご紹介くださるんですか? 願ってもないことです。 はい。 あ、連絡先ですか? はい。 はい。 立田さんには内緒で… また後で連絡してもよろしいでしょうでしょうか? ありがとうございます。 端野は、桜の車を降りて、手を振りながら遠ざかり、やがて千住の駅に姿を消した。 桜は、ふっと笑みを漏らして、振り返していた手を止めて、回送の表示を点けた。
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