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ミカ「すぅっとね、ほんとにすぅっと。カミソリをね、ここに」
ミカ、握っているヒロキの掌を上にし、もう一方の手でヒロキの手首をなぞる。
ミカ「あたし、ピアノに疲れちゃったんだ。ヒロキのさっきの話、よく分かるよ。上には上がいるんだもんね」
ミカの目にまた涙が溜まる。
ミカ「ヒロキ、あたしのピアノ好きでいてくれたんだね。楽しく弾いていたかったな。あたし、馬鹿だよね」
ヒロキ、ミカを強く抱きよせる。
ミカ「ヒロキ、あたしに会いに来てくれたのね」
ヒロキ「うん、テレビで観て。でも信じられなかった。そして、自然とここに向かってたんだ」
ミカ「あたしもね、気がついたらここにいたんだ。あたしたち、楽しかったよね」
ヒロキ「うん!楽しかった!」
ミカ「ああ、ここに来てよかった。最後にヒロキに会えて。これであたし、思い残すこと、ない」
ヒロキ「だめだ!一緒に、一緒にいたいんだ!俺も、俺も行くから!」
ミカ、ヒロキを離して優しく頭を撫でる。
ミカ「だめよ、ヒロキはあたしみたいに馬鹿なことしないで」
ミカの目から涙が溢れ出す。
ヒロキは溢れる涙をずっと掌で受け止める。
ミカの輪郭がボヤけている。
ヒロキ「だめだ!だめだ!だめだ!消えないで!」
ミカ「ね、ヒロキ、あたしヒロキのこと、好きよ。ずっと、ずっと見守っているわ。だから、ね、元気に生きて」
優しい笑顔を残し、ミカの身体がすぅっと消えていく。
ヒロキの掌に、三滴、四滴…ミカの雫と合わさっていく。
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