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奈々子の手によって放り込まれた瓶は、波間に揺れて、とっぷりと沈んでいきました。瓶は沈んで沈んで、大きな岩にこつんとあたってから砂地に沈みました。この時、瓶がゆらゆら揺れながら沈んでいく様子を見ていたウミガメが、瓶のそばに寄っていきました。
「おかしいな、この瓶はちゃんとふたがしてあるし、中身は空っぽだ。本当なら沈むはずはないのにな」
ウミガメはのっそりと動いて鼻先で瓶をつつきました。瓶は砂の中にずぶずぶ沈んでいきそうです。首を傾げたウミガメはこの瓶がどうなっているのか調べ始めました。
動きは遅くあまりしゃべったりしませんが、たくさん年を重ねた物知りです。密閉された瓶の中身が空っぽなら水の上に浮くはずです。ウミガメは前足を使って器用に瓶のふたをあけました。瓶の中から泡が飛び出してきます。それと一緒に言葉が響きました。
(お父さんもお母さんも大好き!本当は3人で一緒に暮らしたい!)
言葉がうわーんと広がって海のゆらめきに溶けて消えていきました。奈々子はお父さんとお母さんに言えない想いを、瓶の中に入れて海に投げ込んだのです。瓶は一度軽く浮いてから、ひっそりと砂の上に横たわりました。空っぽの瓶の中に小さな小さな魚がやってきて、ぐるぐる泳ぎ回って出ていきます。
瓶から飛び出た言葉が一体誰のものなのかウミガメは知りません。ですがきっと悲しい想いをしたんだろうということだけはわかりました。
「一緒に暮らせると良いねぇ」
ウミガメは瓶を背にしてのそのそ歩いて行きます。一度だけ瓶の方を振り返って首を振ると、ふわっと浮いて泳いで行ってしまいました。
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