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雪降る夜のクリスマス。
ドアからのぞいた赤い服。白い髭。
「こんにちは。お嬢さん。サンタクロースだよ」
にっこり笑うその瞳。
プレゼントを置いて出ていく貴方に、言えなかった言葉。
笑顔で隠して、嘘をつく。
「ありがとう。サンタさん」
・
きらびやかなレストラン。
いつもよりもおめかしした背広。緊張した顔。
「この人が、新しいお母さんだよ」
視線の先には見知らぬ女性。
こちらの様子をうかがう貴方に、言えなかった言葉。
笑顔で隠して、嘘をつく。
「うれしいな、仲良くしてくださいね」
・
陽光降り注ぐ、昼下がりの我が家。
私が選んだピンクのセーター、喜びに満ちた顔。
「喜べ!弟か妹、とにかく家族が増えるぞ」
明るい未来に、瞳は輝く。
ウキウキと踊りだしそうな貴方に、言えなかった言葉。
笑顔で隠して嘘をつく。
「やったね。私も楽しみ」
・
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・
・
・
二人きりのリビング、棺桶の前。
真っ黒な喪服、憔悴しきった涙顔。
「お母さんはね、星になったんだよ」
すがるように支えるように、私の体を抱きしめる。
不幸な事故だと信じる貴方に、やっと言えるこの言葉。
あの女はもういない。
邪魔するものはもういない。
笑顔を隠さず、本当の想いを貴方に告げる。
「あいしています。お父さん。永遠に」
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