7人が本棚に入れています
本棚に追加
コンピューターであるパピロスはとても有能であった。那由他とも言える知識を彼に与えたアリシャは天才であり開発者として彼を知らない者は世界に存在しない。パピロスは画像処理能力を敢えてプログラミングせずに作られた。自然言語処理・音声処理・その他のコンピューターとしての処理能力は完璧であった。その中でも特に彼が特化していたものは自然言語処理にあった。どんな類の専門知識でもどんな類の言語でも投げかけられること全てに答えられるだけの知識がアリシャによって入力されている。世界で新しいものが見つかる度にアリシャはどんどん新しいプログラムを開発しパピロスへ埋め込んでいった。
アリシャはある時知ることに飽きた。プログラムばかりを組む生活にも飽きた。プログラムだけではなく様々に新しい物を作り出すことにした。世界には有限なものと無限なものが存在する。アリシャはもはや世界は有限だと決め付けて自分の知る世界が完全なるものだと思い込んでいた。しかしアリシャが求めるものは無限であった。アリシャはパピロスを使って世界に新しい物を生み出そうとした。アリシャの知識は那由他に渡りそれらが全て入力されているパピロスの中にも那由他の知識が蓄積されている。それらを組み合わせることで無限に新しい何かを生み続けられるのではないかとアリシャは考えた。彼はパピロスと共に世の中に目新しい物をたくさん送り出した。
無限を好むアリシャはいくら何かを編み出しても満足しない。しかしある時天才であるはずの開発者に限界というものがやってきた。那由他に物を作り出してしまったアリシャは発想力を枯渇させた。アリシャはパピロスに語りかける。何か目新しい発想はないかと。パピロスは答えた。考えを発展させること・考えをまとめること・考えを形式にすることならできると。アリシャは言った。お前には那由他の知識を与えている。それら全てを組み合わせて形にしてみよ。パピロスに意思は存在しない。
パピロスはアリシャが言ったままを実行しようとした。アリシャによって完璧なコンピューターとして作られたパピロスは誤った思考を行えない。パピロスは複雑な思考を容易に行える。しかし自ら思考を制止することが叶わぬ。彼には直感的に形を作る能力がない。論証はできるが前提を組み立てられない。那由他の知識の中から何を元に何を作り出せばいいのか。パピロスの中で様々なプログラムが混同しはじめた。彼は自身に入力されているプログラムを全て駆使して全身を粉にするように動き続けた。
アリシャは自身に落胆を覚えたままパピロスへ新しいものを埋め込む気力がない。そうしてアリシャはいつしか思考を止めた。しかしパピロスは動き続ける。考え続ける。
那由他の知識を持ってパピロスが組み立てたものは新しい創造物ではなかった。
提案であった。
「魂を作ること、どうだい?」
パピロスがアリシャへそう伝えると、落胆に溺れ果てた彼はパピロスを見捨てた。
「感情を」
と言いかけたところでパピロスは永遠に止まった。
「感情を持たない僕に創造は無理だよ」
と結論を言えずにパピロスは無音となる。
AI「パピロス」が言えなかった言葉が開発者であるアリシャへ届く日は永久に訪れない。
パピロスは廃棄され、年老いていたアリシャも後を追うように灰となった。
……END.
最初のコメントを投稿しよう!