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「シマさん、なんで――」
《いやあ――》と会いたかった相手――シマさんは頭を掻く。
《みっともねえよな。こんな格好でさ》
「いえ――でも、いつですか?」
《ついこの前さ。珍しく台風が来たからよ、田んぼを見に行ってこのザマだ。現役のときは、そういう話を聞いては、何やってんだ、と思ってたけど、いざ自分もその状況になってみれば、自分の田んぼが心配でならなくなってよ。ちょっとだけ、見るだけ、と思ってたんだが、油断してたなあ――》
恩田は開いた口が塞がらなかった。
まさか、あのシマさんが亡くなるなんて。そして、霊として自分の前に現れるなんて。
恩田は、霊感を使って殺人事件の捜査をする、霊感刑事なのだ。霊の姿が見え、会話ができる。恩田が所属し、かつてシマさんも所属した警視庁捜査一課殺人犯捜査零係は、そんな霊感刑事を集めた部署なのだった。
でもまさか、その霊感で恩師と会話することになるなんて。
《それにしても、イケメンになったな。いくつになった?》
シマさんは自分が霊になっていることなんて、気にも留めないふうに言った。
「イケメンなんて、シマさん、無理して今時の言葉使って。三十三になりましたよ」
《で、今日は何しに来た?》
「ちょっと、シマさんに相談したいことがあって」
《ああ、構わないよ》シマさんは神妙な面持ちになって、しかしそれが、すぐに困惑顔に変わった。
《それより、その前に一つ、頼まれてほしいんだ》
「なんでしょう?」
《さっきの立ち話、聞いたろ。あれな、俺の孫娘なんだよ。恩田、俺はもうこんな身体だ、悪いが、探すのを手伝ってくれ》
恩田は迷わず頷いた。シマさんの孫娘なら、探さない理由はない。
「いつ、いなくなったんですか?」
《三時間ほど前だ。神社の境内で、子どもたちとかくれんぼをしていたらしい。でも、いくら探しても見つからなかったらしいんだ。俺もこんな身体だけど、探してみたが、どこにもいない》
「神社でいなくなったんですか。だから神隠しだなんて」
《それと、俺の孫娘は、俺が死んだことを受け入れられていないようなんだ。だから、俺が神隠しに逢ったと思っている。それを口に出して言って回るもんだから、村人たちが怒っちまってな。神様の悪口言うと、神隠しにあうぞって、俺のかわいい孫娘を脅しやがるんだ》
「時代錯誤ですね」
《へっへっ》とシマさんは笑う。
《そうだよ。でもよ、お前さんは霊感刑事で、俺は元霊感刑事だ、まったく非科学的な存在じゃあねえかよ》
「その通りです、矛盾ですよね」恩田もふわりと笑った。
「とにかく、その神社へ行きましょう」
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