chapter.1-2

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chapter.1-2

 神社は、村の外れにあった。境内に続く長い階段を上りきる。うっそうとした雑木林の中に、神殿と社務所がぽつんと建っており、少し離れたところに祭具庫がある。見慣れない来客を訝るかのように、ざわざわ、ざわざわと、雑木林が騒いでいた。 「お孫さん、おいくつでした?」 《今年、五歳だ》 「そうか、前に見たときは、確か生まれたばかりでしたね」  恩田は五年前の記憶を呼び戻す。シマさんの娘さんは、父親に似ず小柄な童顔のべっぴんさんで、その娘もその血を色濃く受け継いでいるように見えた。  社務所の二階に明かりがついている。どうやら居住スペースらしく、社務所の裏側に二階へ直結する階段があった。恩田はそれを駆け上がり、ドアを叩く。 「はい」と年老いた神主が顔を出した。 「夜分遅くにすみません。私、警察の恩田といいます。シマさんとこの孫さんが、行方不明になられたとか」  警視庁と名乗るとややこしいので、解らないように警察手帳をさっと見せる。神主は一瞬で信用したらしく、「ああ、私もこれから、青年団の詰め所へ行こうと思っていたところでございます」と言った。 「そうですか。ところで、彼女はこの神社でかくれんぼをしていたそうですが、それは見ておられましたか?」 「ええ、見ておりました。オニの子が三十数えて、《もういいかい?》というと、《もういいよ》と、声が」 「それは、いなくなった女の子の?」 「ええ、たぶん。六人ぐらいでやっていましたが、女の子は一人でしたから」 「村人がずいぶんと、神隠しだなんて騒いでいましたが、前にもこういうことがあったんですか?」  恩田が尋ねると、神主はふっと表情を曇らせた。 「それは、根も葉もない噂でございます。実は私、三十年前に一人娘を事故で亡くしておりまして。その折に、娘の遺体が見つからなかったものですから、村人たちが妙な噂をするようになったのです」 「そうでしたか、それは失礼なことを聞いてしまってすみません」 「それより刑事さん――」 「では、私はこれで失礼します。何かありましたら、すぐ連絡してください」  恩田は言い、即座に辞す。ようやく神主が、刑事一人で捜索に来たことをいぶかしく思ったらしい、ちょっと伺うような表情になったからだった。  しかし、《声が聞こえたというならこの辺りにいるはずだな》シマさんが言い、恩田は頷く。 「かくれんぼをしていた子どもたちに、話を聞かなければなりませんね」 《そうだな。よし、俺は神社の周辺を探してみる。お前は子どもたちのところへ行ってくれ。青年団の詰め所へ行けば、子どもたちの身元を教えてくれるはずだ。何かあれば、ポケベル鳴らせ》  シマさんは言ってから、ちょっと間をおいて噴き出した。《悪い、もうポケベルなんて持ってねえや》 「それに今は、携帯電話の時代ですよ」  行ってきます。恩田は走り出す。なんだか、シマさんとコンビを組んでいたころに戻ったみたいだ。あの、正義感という灯火が、情熱という炎で燃え上がり、輝いていたあのとき。
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