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chapter.2-1
そうか、解ったぞ。
早く行かないと。手遅れになるかもしれない。
恩田は急ぎ、神社に戻った。シマさんが携帯電話さえ持っていれば。この際、ポケベルでも構わないけど。
石段を上がりきり、意気も絶え絶えに「シマさん!」と呼ぶ。
《見つかったか?》
「いえ、でもたぶん、祭具庫の裏の古井戸です」
《待て、あの子はあんなところには近づかない。根っからの怖がりで、幽霊とかおばけとか、とても嫌がるんだ》
「でも、彼女だそうですよ、ここでかくれんぼをやろうと言い出したのは」
えっ? シマさんの顔から、血の気が引いた。駆け出そうとしていた恩田も、思わず足を止めた。
最初から、どうもシマさんの話の切れが悪いように感じていたのだ。自分の孫娘がいなくなったことに、必死になりつつも、半信半疑というか――
「何か、心当たりでも?」
恩田が尋ねる。シマさんは《行こう》と促してから、改まって言った。
《俺のせいだ》
「どういうことです?」
恩田は走り、あたりを見回しながら尋ねる。
《あの子はな、かくれんぼが苦手だった。怖がりで、じっと一人で隠れていられないんだ。だから、いつも一番最初に見つかって、ドンくさいって馬鹿にされていたんだよ。で、俺に聞いてきた。かくれんぼで見つからない方法を、さ。俺はそんなものないって答えた。自分で考えさせたかったんだ。代わりに、俺は一つ、教えたことがあるんだ――》
最後まで見つからずにいれば、願い事が叶う。
「じゃあ、あの子はそれを信じて?」
《たぶんな。だから、誰も近づかない古井戸のある神社を選んだ。古井戸のあたりに隠れれば、誰にも見つからない。最後まで見つからずにいられるって思ったんだろ》
「あれですか」
恩田の目に、古井戸が飛び込んでくる。ぱしゃっぱしゃっと、小さな水音が、断続的に聞こえていた。
「おーい! 大丈夫か!」
恩田が覗き込んで呼びかける。《大丈夫か!》シマさんも、恩田にしか聴こえない声で叫ぶ。
「助――て――」
消えそうな少女の声。ギシッギシと、桶を引き上げる縄が軋んでいた。たぶん、彼女が引っ張っているのだ。
「待ってるんだよ、今、助けるから!」
恩田はできる限り優しく声をかけ、ポケットからライターを取り出して火をつけた。
――やっぱり。
暗い井戸の底、その水面に、
二人いる。
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