148人が本棚に入れています
本棚に追加
*
童顔でおかっぱの少女は、まっすぐにあたしいる、古井戸のほうに駆けてきた。そしてあたしの姿を認め、ハッとなって立ち止まった。ずいぶんと困った顔だった。
《どうしたの?》とあたしは声をかけてみた。彼女の身体が、びくりと震えた。
そうか、彼女はあたしの姿が見えて、あたしの声が聴こえるのね。
珍しい子。
たぶん、あたしと同い歳くらいだろう。
あたしが死んだ歳と。
《何をしているの?》あたしが尋ねると、彼女は小さな声で、「かくれんぼ」と答えた。
《そっか、ここに隠れるの?》
こくりと頷く。
「だってここ、誰も来ないもん。見つからないから」
《ずっと、見つからないかもしれないよ?》
「いいよ。最後まで見つからずにいれば、願い事が叶うから」
何それ。じゃあ、あたしだって、願い事が叶うんじゃない? だってあたしは、ずっと誰にも見つからずにいるんだもん。
そう思うと、意味もなく腹が立った。純粋無垢な少女。願い事を叶えたい少女。あたしより、幸福な少女。この子は、あたしより長く生きていく――
《ねえ、隠れるならいいところがあるのよ?》
「どこ?」
《絶対に見つからないところ》
そう、あたしみたいに。
最初のコメントを投稿しよう!