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クリスには2才上の兄、スライがいた。彼はというと、ものの15分、ボールペンで適当な絵を描いて、遊びに行ってしまった。”絵心”という言葉をジュラ紀の地層から掘り起こさなければならないような兄の絵は、正直、何を描いているのかもわからない。祖母の顔なのか、それとも祖母の家なのかもわからなかった。もしかしたら熊かなにか、あるいは自動車かもしれなかった。クリスはしめしめと思った。兄の稚拙な絵が引き立て役になって、自分の絵はずっと芸術的に見えるはずだ。祖母にアピールするのだ。「ほら、あの時の、僕のことを大好きな仔犬!」
母が二人の絵をボール紙の額に入れてくれた。スライは金色、クリスの絵は銀色。いよいよ、祖母の誕生会。父と母からはキツネの頭付きの毛皮の襟巻き。口がクリップになって自分の尻尾を咥えられるようになっている。いよいよスライとクリスのプレゼントが披露される。祖母は包みを開くと笑顔でこう言った。
「まあ、ありがとう、シルベスター、クリストファー。2人ともとっても上手だこと」
クリストファー少年は耳を疑った。2人とも?スライの、あの手抜きの落書きも?
祖母は、芸術的素養は皆無だったし、あくまで2人の可愛い孫に平等であったのだ。ただ、残念なことに仔犬についてのコメントは皆無だった。仔犬は、祖母にとってはただの絵のモチーフであり、画用紙の裏に秘められたクリスの下心を読み取ることはなかった。クリスの2時間がかりの作戦は、見事に失敗した。
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