01+++覚醒、動き出す運命

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「もーー、なんなのうちのバイト先! 人使い荒すぎでしょもー。」 …って、独り言言っても仕方ないんだけどねー。 私こと、永久井(とわい)せるな―ーーあ、これ一応名前ね―ーーは、携帯電話をベッドの上に放り投げながらぼやいていた。 ようはアルバイトのシフト勤務の相談だったのだが、繁忙期が終わり漸く休みがまとまって取れたところに、シフト交代してくれ!と要請が来たのを断っただけの話である。 因みに、年中無休で営業している雑貨屋のアルバイトで、現在私は就職活動中の為、基本的に週4日で勤務している。 …が、なかなか人が足りてないのか、応援要請を受けて渋々入ることも多い。 とにかく、久しぶりに休み取れたし就活しながらのんびりしよう… ひとまず履歴書買い足すか。 「…あー!ボールペンのインク切れてる。これうちの近くに取り扱い無いんだよなあ…」 因みに私が住んでいるのは千葉県市川市の行徳駅前に程近い場所だが、 愛用しているボールペンの替え芯は近所に置いていない。 しょうがない!どっかありそうなとこ行くか。隣駅の妙典周辺ならあるかな…見るだけ見てみることにしよう。 「…電車使うか迷ったけど…妙典なら自転車でいっか!」 +++ 「ラスト一個残ってて助かった〜。ついでに履歴書も買い足せたしいい傾向だ!」 自転車の篭にビニール袋を入れながら私は帰り支度をしていた。 「さて、と、帰るか…?え!?袋が無い!」 そんな!?さっき私確かに自転車の篭に入れたのに!? と、私のビニール袋を奪って走り去ろうとする何者かの姿を視線の先に見つけた。 何者かは、高架沿いに行徳方面に向かって行った。 私は追いかけることにした。 「ちょっと!!待ちなさいよ!!その袋返しなさいよ!!」 自転車そっちのけで走って追いかけていたが、漸く追いついたと思った、次の瞬間。 「…っ!?」 は、背後から突かれて…!? 背後から背中を強く突かれてしまい、痛みを感じる余裕すらないまま、私はその場に倒れこみ意識を失ってしまった。 +++ 「…この辺りか!罪人が逃げ込んだのは」 肩に乗せた黒猫(の姿をしているが、実は人間)がぼそっと呟く。 「そうみたい。空き家らしいけど、施錠されてないみたい。 ちょっと危ないかも」 あたしは、持っていたPDAで現在地を確認しながら返した。 「気を付けろよ。敵はどういう手を使って来るかわからない。 …!!人の気配がある!! 誰かを襲ったらしい!!」 「えっ!!?益々マズイでしょそれ!助けに行かなきゃ…ちょ、バジル!!?」 バジルと呼んだ黒猫は、あたしの肩を降りて言った。 「俺が中に突入してくる。お前はそこで待機してろ!」 「…わかった…」 不安なまま、あたしは彼を見送る。 と、その時、けたたましくPDAの通知音が鳴った。 「…って!この辺に別の罪人現れたのかよ! …バジルごめん。あたし行ってくる!」 あたしはPDAを閉じてポケットにしまうと、罪人が現れた方法へ一目散に駆け出した。 +++ 「ぅ…っ…痛たた…ここ…どこ…」 手首の先と背中に痛みを感じて、私は漸く目を覚ました。 ってか、何で私頭上に腕!?縛られてるの!?動けない!! 地に足が付いているのが幸いか…。 目の前には先程まで追いかけていたビニール袋の窃盗犯らしき男がいて… 静かに私に向かってこう言った。 「…やっと目が覚めたか。クロスジュレ=ラブズベリーシーム…」 …は?誰ですか、それ… 誰かと間違えられて私こんなところに連れてこられたんですか? 「わ…私、違います!人違いですっ!」 抵抗したが、目の前にいる窃盗犯は動じない。どころか。 「惚けるな!お前がクロスジュレ=ラブズベリーシームだと言うことは調べがついている。」 いや、だからクロス何とかラズベリーって何ですか?意味が解らないんですが… 「だから、私は人違いで…っきゃあ!!!」 突然、激しい刺激が私の体を襲った。なに、今の刺激!…ものすごく痛いよ! 「これでも否定すると言うのか。」 「…う…っ…だから…っあああああ!」 抵抗すると、さっきより更に強い刺激を浴びせられてしまった。 痛すぎて、その痛みの所為でまた意識が遠のいていく。 ど、どうすれば…ここを脱出できる…の… その時…私の中で動き出すものがあった…。 「…気絶したか…まあいい。。二度と動けないようにしてや…!!?」 急に、赤い閃光と共に槍のようなものが目の前の窃盗犯に突き刺さった。 が、急所は外している。 「ぐあああああああああ!!!!!!」 そこで、私の意識は現実にかえる。 「…っはっ!!?」 私…今何か力開放してた…!!?拘束も解けてる! と、とにかく逃げなきゃ…! ふらつきながら、下に落ちていたビニール袋を拾って私は駆け出した。 「おっと!逃がさないぞ!!」 しかし、あっさり追いついてしまい、私は窃盗犯からの一撃を食らう。 「きゃあ!」 間一髪のところで避けたが、 「外したか…っ今度こそ!」 今度はまともに狙われてしまった!やばい!避けるのが間に合わない!! どうしよう… 「…!!」 突然、一匹の黒猫が光の速さで窃盗犯に突っ込んできた。 「え…な…なに!?猫!?」 窃盗犯はバランスを崩してしまった。…あんな小さな猫がどうやって窃盗犯を!? 「貴様!!猫のクセに!!」 黒猫は踵を返して方向を転換した。 「猫だか杓子なんだか知らないけど!!邪魔をするな!!」 窃盗犯が私の方向に攻撃を仕掛けようとした時だった。 「星海(ほしみ)!!伏せろっ!!」 え!?今、どっから声が…しかも、「私の名前」も知ってる!? 言われるがまま私は伏せた。 なんとか攻撃は避けられたが、これが窃盗犯を激昇させるトリガーになってしまった。 「貴様あ?!!!!」 そして今度は静かに、しかし苛々した口調が聞こえてきた。 「さっきっから、猫とか杓子とかテキトーな事言いやがって!!」 声の主はまさかの…黒猫だった。 「えっ…!?猫が喋った…!?」 驚きのあまりに私はその場に固まってしまったが、次の瞬間更に驚いてしまった。 「…えええええ!!?」 なんと、目の前にいた猫が私の目の前で人間の男性の姿に変化したのだ! 「俺が冥界のパトローラーと思わなかった様だな!」 「…!!」 男性は何か技を繰り出し、窃盗犯に攻撃した。 「大人しく地獄へ帰りな!」 そう言うと、窃盗犯は叫びながら消えてしまった。 なにこれ…めちゃくちゃ強い!そして動きがめちゃくちゃ速い! 「…ふう… さてと。…星海…大丈夫か?」 男性に唐突に「名前」を呼ばれた私ははっと気が付いて返事をした。 「え?!あ、う、うん…」 思いだした… この人…前に私が襲われたときにも助けて貰った人だ… また助けてもらっちゃった…。 「怪我がないならよかった」 男性は少し微笑んだ。 「あの、どうして…私ばかり狙われるのか分からないんですけど…」 「…それは、俺も今調査しているところだ。 …何故星海だけが狙われるのか、まだよくわかっていない…」 更に思いだした。私が「その名前でいた頃」に、私はこの人に助けられてたんだ。 だから私の名前を知ってたのね。でも… 「…あの、ええっと…私、本当は…」 「ん?」 「あ、いや。確かに、「本名」はそれなんだけど、それは私の表の人格みたいなもんで、その、なんと言ったらいいのかな… 今の私は別の、裏の人格が出ていて…」 「別の人格…?」 いいやもう…言ってしまえ! 「私の今の「人格」は、「せるな」っていう別の人格なんです」 「…!!」 遂に打ち明けてしまった。 そうなのだ。実は私…所謂二重人格ってやつで…自分の中に2つの人格を持ってるんだ。 「つまり、全く違う2つの人格が1人の人間に存在している…?!」 「そういう事になるのかな?こっちの人格では名乗りを変えてて「永久井 せるな」って名乗ってます」 「へぇ?…。」 「本来表であった筈の「まりむ」の人格は今は殆ど封印していて…時々出てくることもあるみたいなんだけど… 私自身、よくわかってないことが多すぎて…」 「そうか…こうやって知り合ったのも何かあるかもしれない。 …実はさっきあっさりバラしてしまったが、俺も、呪いかなにかで動物の姿に変わる体質になってしまったんだ」 「え…。」 「信じられないかもしれないが、この世界には地獄から降りてくる罪人達の魂がうろついていて、俺はそいつらを地獄に送り返すパトロールをやっている。 いつの頃からか、この辺りに罪人が集中するようになったのは、この辺りに「神の生まれ変わり」がいる事が分かったからだ。 …ただ、目下調査続行中段階だが。」 「そ、それは大変ですね…」 淡々と話を聞いていたが、急に男性が私の目を見て、こんなことを言い出した。 「…実は、最近の罪人の行動を分析してみたら、 度々ターゲットにしている地域と人物の特徴の傾向が…君とほぼ一致しているんだ」 「…は?!わ、私!?」 私は驚いて声が裏返ってしまった。 だから最近、私、妙に変な人に追いかけられたりしてたのか! 「君は、何か変わった「記憶」を持っていたりという事は無いか?」 「……あっ!」 記憶、と聞いて、私は思いだした。 時々浮かんでくる、不思議な光景を…。 「私が生まれるずっと昔に…何処かの庭園かなにかに居たような…そんな、あり得ない光景が時々頭をよぎる事はあります…」 「それだ!」 「えっ」 「漸く繋がってきた。」 「な…何がですか!?」 男性は次にこう言ってきた。 「…突然だが、今から俺の家に来てくれないか?」 「えっ!?い、いや、その…」 初対面じゃないのは解ってるけど急にこの人女の子に何を言い出すのよ…!? と、一人で混乱していたら男性はそんなことしない!といった真面目な口調で言った。 「変な事はしねーよ!…マジで真面目な話だからな」 男性が私の手を取ってくれて、私は漸く立ち上がった。 真面目な話となれば、聞くだけ聞いてみるしかない。 「…分かった。場所、教えてください。」
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