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「ただいま!」
黄緑色の髪の女の子が玄関口で出迎えた。
「おかえり!遅かったね…って!バジル!?あんた何「修平」の姿で堂々と女の子連れてるのよ!!」
「落ち着けぜくろ!これには深い事情があって…それを今からここで話す為に彼女を連れて来た。」
へえ、この人…修平さんって言うのね…。そして、この女の子はぜくろさんって言うのね。
「あ、初めまして…お邪魔します」
初対面なので、一応挨拶をしておく。
「…まあ、端的に言うと、彼女は最近よく罪人に狙われてるうちの1人だ。」
「…それは大変」
「で、さっき助けに行ったら俺とぜくろが調査しているある事にほぼ合致する事が分かった。
彼女は…もしかすると、節制神クロスジュレの生まれ変わりかも知れない。」
「…えええええ!!?」
「ええええええ!?」
つられて驚いてしまったが、私が…神の生まれ変わりかもしれないってどういうこと??
「ちょっ、ちょっと待ってよ!?もしそれが本当なら、この子…能力持ちって事になるの?!」
あの…言ってる意味がよく分からないんですけど…
「確かに、私は別の人格を持ってる事は確かなんですけど、私自身、その、能力とかそんなのは…あっ」
「え?」
「私、人格が変わるとき、何か凄い力を解放するみたいなんです…
今までは無意識に発動するもんだと思って放って置いてたんだけど…
その、神の生まれ変わりとかなんとかってのに、関係しているんでしょうか?」
「うーんそうだなあ……」
「可能性はあると思う。」
「ちょ、修平それマジで言ってる?!」
「節制神の特徴。思い出してみろよ。」
「…あっ!!」
「どうかしたんですか?」
「人格を2つ持っていて、一心同体、そして能力が2つに分かれてる」
い…一心同体…!?能力が、2つ…?
「そしてもう一つ。何方か片方は『生まれ変わる時その力を封じられている』」
「…えっ!!?」
「貴女が人格が入れ替わった時に力を使えたのは、恐らくそれだね。
もう少し詳しく調べて見る必要はあるけど…」
ということは、元々私は能力持ってたけど封印されているってことになるらしい?
「取り敢えず、名前言っとかないとね。あたしはイチ死神のぜくろ。
バジル…こと、修平はあたしの相棒。フルネームは羽積修平っていうの。よろしく!」
「あっ…すみません。私は永久井せるなって言います。一応。」
「一応?」
「本来の名前は星海まりむって言うんです。そっちの方が本来の人格な筈なんですど、
ある日を境に私の人格の方が表に出て来て、ずっとそのままなんです。最早何方が表かわからない状態というか」
普段絶対言わないことを私はあっさり彼女…ぜくろさん達に自身の秘密を打ち明けてしまった。
流れ的に言わないといけないのはなんとなく感じ取れていたけど…。
「まあ、これからおいおい調べてくとして…」
急にぜくろさんが私の目を見て言った。
「力は今は使えなくてもある日突然解放されるものだったりするんだよ。実感は無くても良いの」
「…「私」自身も…?」
「いや、お前みたいに簡単に力解放出来るとは限らないんじゃないか…?」
「そりゃ、そーだけど。」
「…そうか、今まで自分は二重人格で、周りから変に思われても仕方ないのかなって諦めてたけど…
そういう意味で普通じゃないって事は…このキーホルダーってもしかして…」
私は、ポケットに忍ばせていたキーホルダーを取り出した。
青い棒の先端に、逆三角形のモチーフがくっついている格好のキーホルダーである。
「…それはなんだ?」
「これは、私が昔引っ越して暫くしてからたまたま拾ったものなんだけど…
捨て切れずにいて、お守りがわりにずっと持っているものなんです」
「…それだ!!」
「えっ!?」
「それが節制神が持っていたとされる力のトリガーだ!」
「えーーーー!!?」
「…これに、思いを込めた事はある?」
「え?ま、まあ…一応…お守りにしてましたし…」
「それになんでも良い!それ握り締めて、とにかく思いを込めてみて!!」
「え!?え、あの、急に言われても…!」
えーい!なるようになれだ!
私は「自分を守ってほしい」という願いをキーホルダーにこめてみた。
暫くすると、突然キーホルダーが光りだした。
「…え…!?え…な、なに!!?つ、杖…!?」
先程までキーホルダーだった筈のそれは、一瞬のうちに逆三角形のモチーフが先端に付いた杖の形に変化していた。
「すげえ…」
「まさか、貴女が本当にそうだったなんて…!偶然ってあるんだ…」
「こ、これって…私が…私の力…!?」
「罪人どもが最近この子を執拗に狙っている理由がなんと無く分かった…」
ぽつり、と修平さんが呟いた。
「発動したてはうまくコントロール出来ないものだけど、そのうち使いこなせるようになるよ。
能力なんてそんなもん!」
割とお気楽にぜくろさんが言ってくれたけど、
「そんな気楽に言われても…不安です。またいつ襲われるか分からない訳でしょ」
「その為の「お守り」なんじゃない!」
うーん…そうなのかな…?
半信半疑で、私は先程目の前に出現した杖を見つめた。
「んーで、使い方は、取り敢えず振る!」
「…えらく単純に言いますね??」
「そっから技は自分で生み出していくものだからね、こういうのは「そうしたい」っていう思いが具現化して発動するもんだから
って、簡単に言っちゃったけど、慣れるまでには時間はかかるよ」
「「そうしたい」っていう思いね…。」
なおも簡単に説明されたが、果たしてこんなので大丈夫なんだろうか…。
と、悩んでいた私に、ぜくろさんがこんな話を持ち掛けてきた。
「…そうだ!一時的に、あたしの手伝いしてくれないかな??」
「て、手伝い!?
…まあ、今は私仕事探してる身だし、バイト無い日なら手伝えますけど…」
「決まりだね!じゃ、早速行こうか!」
「え!?今ですか!!?何も用意してきてませんよ!」
「持ち物はその杖だけでいいの。ちょっとした練習も兼ねてね!
…ってか、タイミング良く奴らがこの近くに現れたみたいだし!」
「えええ!?また私襲われるんじゃ…」
「そうならない為の練習だよ!」
ぜくろさんが、すっと立ち上がった。私は彼女に手を取られ、立ち上がる。
「俺も付き合うぞ!」
修平さんが腰に手を当てて気合十分で言った。
「ありがと!助かるよ!」
杖を握りしめたまま、私はこれから何が起こるのか想像つかず不安になっていた。
+++
どこかの河川敷。
何やら、また空間を行き来する術でこちらに飛ばされたようだった。。
「なんか、嫌な雰囲気ですね…」
「…近くにいるよ、気をつけて!」
突然目の前に何者かが現れた。
「早速お出ましみたいね!適当に杖振って見て!」
「えっ、えっ、こ、こうですかっ!!?」
言われるがまま、戸惑いながら私は杖を振ってみた。
すると、杖から放たれた光は目の前にいる何者かにストレートに当たった。
「…い、今、光が…当たった!?何これ…凄い…
私こんな力使えたんだ…」
呆然としていると、ぜくろさんが叫んだ。
「感動してる暇はないよ!また来るよ!」
「え、えーーっ!?」
こうなったら適当にぶん回すしかない!
とにかく無茶苦茶だが、私は杖を振り回しまくった。
「!!!!!?!!!」
敵は完全に混乱している様子だ。
それを見計らって、ぜくろさんは襟元につけたブローチを外した。
「よし、ヤツが弱った!あとはあたしの仕事だ!」
そう言いながらぜくろさんは一瞬で何かを発動させ、手に取った。それは…
「!?か、鎌!!?大きい!」
普通女の子一人では振り回せそうにないその大きな鎌を、ぜくろさんは軽く振り回し、
…そして、一瞬で敵はその場から消えた。
「…いっちょ上がりっと!」
「…凄い…」
最早、呆気にとられて見ている事しかできない私…。
「こーやって、地獄からこの下界に逃げ出してきた「罪人」達の魂を回収して取り締まるのが、あたし達死神の仕事なの。」
さっきの鎌をブローチの形状に戻しながら、ぜくろさんは説明する。
「一応、死神って名乗ってるけど、あたしはただ死ぬ予定の人の魂を狩っているような所謂死神と呼ばれるものとは違うから、
だから「イチ死神」なんだ」
「そうなのね…」
ふと、右手の感触が軽くなった。見てみると、今まで持っていた杖が消え、元のキーホルダーを私は握りしめていた。
「あ…杖が元のキーホルダーに戻ってる」
「それは使っていくうちに自分で自在に変化出来るようになるみたいだよ。
調査した文献ではそう書いてあった。」
使っていくうちに…か。
「うーん…本当なんでしょうか…まだあまり信じられないけど…」
半信半疑で、私はキーホルダーを服のポケットにしまった。
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