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半日後、深夜の行徳駅前公園。
何か怪しい影が園内をうろついている。
「…今度はこっちかよ。しっつこいな」
空間移動術でその地に降り立った俺こと羽積修平は、今朝から動きまくっていた疲れからかぼやいていた。
「…あいつらに断り入れないで俺だけこっち来ちゃったけど…ちゃっちゃと片付けますかね…」
突然、怪しい影が攻撃仕掛けてきた。罪人か!
「うわ!!?」
なんだこいつ!?強い!!
思わず俺は体勢を崩してしまった。
しかし、罪人はむっちゃ余裕といった表情で俺を見つめている。
…やっぱり俺だけではダメか!?
「真夜中に出動なんて困るんですけど!」
落胆しているところに、女性の声が二つ響いた。
「ってか、今度はよりによってうちの近くなんて!…また私を狙って!?」
ぜくろ…と、昼間の…!?
「お前ら!寝てた筈じゃ!?」
「どうもこの辺が怪しい情報がPDAに飛んで来たんで、慌てて駆けつけて来たの。
って言っても1時間は掛かってるけどね?」
ぜくろは空間移動術を持っていない。とすれば、電車で移動してきた事になるが、ここまで1時間で来れるもんなのか。
考えていると、今度は別方向から来た昼間の女性が、
「私はさっき家に帰って来て、疲れてたんだけど、嫌な予感が公園の方向でしたんで、キーホルダー掴んで飛び出して来たんです!」
こちらも慌てて飛び出してきたようだ。
自転車に乗ってきたらしい。ということは、この辺の住民だったのか。
「まあ兎に角話は後だ…こいつは昼間のやつとは格段に強い、気を付けろ」
「分かったっ!
…せるな!危ない!」
「え!?…!!??!!」
振り向いたせるなを目がけて、罪人が攻撃を仕掛けてきた。彼女は避けきれずまともに攻撃を受けてしまった…が、
次の瞬間、その方向から激しい閃光がほとばしった。
「ま、マズイ、マトモに当たった…!!?…え!?」
ぜくろの顔が蒼ざめた…が、次に現れた目の前の少女の姿を見て、彼女は驚いた。
先程までそこにいた女性とは、容姿が異なっていた。
肩にかかる程度の髪型は同じだが、着ている服は私服ではなく、高校の学生服…?!
「…あーもう!焦れったいなあ!3年振りに暴れてやるか!」
少女の一言に、俺はピンときたが、ぜくろは気づいていない様子だ。
「え!?えーーー!?この子…誰!!?」
…まさか、彼女は…節制神の…!?間違いない!!
あの時助けた…少女そのものだ!
目の前の罪人も、突然何が起こったんだという表情で呆然としている。
「久しぶりだから感覚鈍っちゃってるかもね…
これ、借りるね…もう1人の「あたし」!」
少女はキーホルダーを握り締めた。次の瞬間、少女の左手に赤い杖が姿を現した。
「こいつは…あたし知ってる!3年前にあたしを襲ってきた奴と同じやつだ!
行動パターンが全く同じ!」
「えーーーー!?知ってるって!!」
ぜくろが驚いて飛び上がった。
「しかも3年前…って事はこの子…もしかして昼間にせるなが言ってた!」
少女は右手に杖を持ち直すと、無言で杖を振り回し始めた。
相当戦闘慣れしているようで、次々と敵を翻弄していく。
「…強い!!既に戦闘慣れしてる…!もしかして…これが節制神のもう一つの力…!?」
追い詰められた罪人に、低いトーンで少女は呟いた。
「…堕ちな!」
杖の先が槍状に変化し、槍の先が罪人に貫通した。
次の瞬間、赤い閃光がほとばしり、罪人はあっという間に消滅した。
「凄い…貴女は一体…!?」
ぜくろが少女に声をかけた。
「ん?あたし?」
少女は杖から戻したキーホルダーをポケットにしまいながら、その名を名乗った。
「あたしは…星海まりむ…だけど??」
「…貴女が…!?もしかして節制神クロスジュレの片割れの能力を持つ…?!
やっぱりそうなんだ…!」
…思いだした!!俺は少女の名前を知ってた。しかも、3年前に既に。そして。
「あれはクロスジュレが持っていたとされている能力の「制裁」の部分だ。
…という事は彼女が…!?」
「えっと…なんのことかさっぱりなんだけど…
久々に出てくるきっかけがコレかよ…。別にいいけどさ…。」
星海はきょとん、としながらその場に立っていた。
どうも、本人は自分が何者なのか、全く理解していないらしい。
「…そうか!節制神は能力を2分化してたとされる!
一つは「静と動」 もう一つは「制裁」
…こんな偶然あっていいの…!?」
「制裁…?節制…神…?あたしが…節制神…??」
口走ったぜくろの言葉に、戸惑いながら星海が問いかけた。
「…正確に言うと…表に出ていたせるなは「静と動」を司る力を持っている、
この子は「制裁」、そして2人は一心同体。
…節制神の特徴と完全に一致する!」
「ちょ、ちょっと良くわかんないんだけど!もう少しわかりやすく説明してよ…」
…私…?えっ!?人格が入れ替わって…私が引っ込んだ!?
いやいや、本来はこうじゃないか…ってそんな事どーでもいい!
(あーもう良くわかんないんだけど!)
!?…!?突然声が聞こえ…
(節制神とかなんとかってなんなの!?あたしが持ってる力ってそんなとんでもないもんだったの??)
…とにかく、まだよくわからないけど私たちどちらとも節制神の生まれ変わりか何かという事みたいね。
(…もう1人のあたしの声!?
なんで!?すごく鮮明に声が流れて来るよ!?なんで!?これ、夢じゃないのに??)
ダメだよ!混乱したら!とにかく落ち着いて…落ち着くのよ私!
(!? う、うん…??)
「…どうした?突っ立ったままで」
「…はっ!ご、ごめん!」
呆然と立ち尽くしていた星海が、俺の呼びかけで我に返った。
「ここで立ち話してるのもなんだしどっかで話そうか…」
「そうだな…あれ?」
ぜくろと俺が話しているうちに…
先程までそこにいた筈の星海の姿がなくなっていた。
代わりに現れたのは…
「…ふう。」
攻撃を受けた筈のせるながそこに立っていた。が、傷一つついていなかった。
…これって…!?
「そうですね、もうだいぶ遅い時間ですし、どうせならうちに来ませんか?」
「わ!元に戻ってる…!?」
+++
「誰も来る予定なかったから散らかっててごめんなさいね。
すぐ片付けるわね」
正直人を上げるどころではないくらい乱雑な部屋を慌てて片付けながら、
私は客人2人をリビングに通した。
「あ、良いよいいよ別に」
「そんな気を使ってくれなくても…」
ざっと片づけを終えたところで、ダイニングにお茶を沸かしに向かう。
「お茶入れますけど、何が良い?…昨日買ったばかりの紅茶しかないや…」
「いやいや、全然気使ってくれなくて構わないから!」
ぜくろさんが慌てて言ってくださったけど、それじゃ悪い気がして、
構わず私はケトルに水を汲み、お湯を沸かし始めた。
「…さっきは驚かせてごめんなさいね
突然の事で、私も意識してないままもう1人の人格が出て来ちゃって。
あの通り、私自身が何かピンチな状況になると出て来て助けてくれるみたいなんですけど、
毎回無意識に人格が入れ替わってるみたいで」
「…え?姿形変わってたよ?」
「…え?!」
「もう1人の人格と思われる方に変身してた」
「いやいや、まさかそんな冗談…えええーーー!!?」
へ、変身してたって!?
「もう1人の人格、どんな格好してました!?」
慌てて私はぜくろさんに問うた。
「どうって…ブレザー?高校の制服みたいな…」
「…まさか。そんな…あ、お湯湧いた!」
けたたましく鳴るケトルの合図に、私は火を消してお湯をポットに注いだ。
注ぎ終わったところでぜくろさんが続けて答える。
「ブレザー着て赤い杖ぶん回してたね」
「ブレザー…って事は、私が完全にこっちに人格入れ替わった時に着ていた最初の服だ。
確かにあの日は学校の制服着てた。」
「学校の制服…なるほどね!繋がったわ!」
「え??何がですか?」
思わず、紅茶の分量をはかる手が止まる。
「さっき話した、節制神の特徴。
能力が2分化していて、更にその人格も2分化している。
但しお互い一心同体の為に入れ替わる事で姿形を現すけど、分身はしない。」
「…じゃあ、私ともうひとつの人格は
夢の中では対峙出来ても、現実に互いの姿形を見ることにはならない…と
そう言うことですか?」
「研究の理論上は、ね。
但し、何かの拍子で例外が起きる可能性はなくはないと思う」
例外が起きる可能性ってことはつまり…あり得ないはずの事が起こるかもしれないという事?
「そうか…私いつももう一人の人格に助けてもらってばっかりだったんだ…」
自分で自分を守れるようになりたい…
初めて、私はそういう気持ちになった。
そして「例外」の可能性…
いつかそんな時が訪れる時は来るのかな…
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