01+++覚醒、動き出す運命

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走りながら、私はぜくろさんに電話をかけていた。 「…もしもし?」 「もしもしっ!せるなです!今ちょっと大変な事になってて… 助けてください!!」 「え!?どうしたの?」 適当な柱の影を見つけて、私はそこに身を隠した。 「私1人でその…罪人追い払おうとしたんだけど逆に数が多すぎて埒があきません! なんとか逃げてきたけど時間の問題かも」 「っ!そんな、無茶しないで!すぐ来るからそこにいてね! 場所はどこなの?」 「竹芝です!離島?行く船が出るターミナルだかどっかの裏手にきてます…」 「分かったっ!直ぐにくる!」 「お願いします!!」 私は電話を切り、キーホルダーを強く握りしめた。 …罪人達の動きが読めない。 再び襲われるのも時間の問題か…!? 「ぜくろ、竹芝ってどこだ」 俺はPDAを開いたぜくろに問う。 「えーと、このへん!」 とん、と軽くぜくろは目的地を指さした。 「…分かった!飛ばすから大鎌(おおがま)ブローチ持っとけ!」 「へ!?飛ばす!?」 きょとん、とするぜくろの腕を掴み、俺は空間移動術(くうかんいどうじゅつ)を発動させた。 「待ってちょっと修平…わー!?」 私はなおも先程隠れた場所に身を潜めていた。 が、ずっとここに隠れてるのも時間の問題か…?! 「(…聞こえる?もう1人のあたし!)」 突然、脳内で誰かが呼びかけてきた。 「(…!?この声…)」 昨日聞いた声と同じ…ううん、私の声と声質が同じだ!? 「(聞こえるなら、呼びかけて。)」 そっと、私は脳内で声に呼びかけた。 「(…聞こえるよ?)」 「(やった!!成功!)」 呼びかけられた声の表情が、少し和らいだ。 しかし、私は「成功」の意味が全然つかめなかった。 「(成功??)」 すると呼びかけてきた声が、あり得ない提案をしてきた。 「(もうシンプルに言うね。…これから、あたしと入れ替わって欲しいの)」 い…入れ替わる!? 「(貴女と??)」 「(あたしと貴女は一心同体。どちらかが困ればどちらかが顔を出す。)」 続けてきたのは謎解きの暗号のような言葉。全然意味が解らない…。 「(…?どういうこと?)」 「(今、貴女は誰かに狙われていて、立ち向かおうとしてるじゃん? でも、ピンチじゃん?あたしのフォロー必要じゃん…ってね)」 …あ…そうだ…この子は…私の「表の人格」だ… 「(だから、この先はあたしがやっつけるから!入れ替わって欲しいの!)」 えええっ!?表の人格がやっつける!?入れ替わる!!? 「(そ、そんな事…今まで無意識に貴女が出てきたんだから、出来るわけ)」 「(出来るよ!信じて!あたしのこと…「18歳の頃の星海(ほしみ)まりむ」のこと!)」 「(…!!)」 「(今、もう1人のあたしは昔と違う名前で過ごしていることは知ってる。 でも、あたしはその名前を知らない。 これは今後貴女とあたしがお互いに入れ替わるのに必要だから、教えて?)」 「(…せるな。永久井(とわい)せるなって名乗ってる!)」 「(…分かった!じゃあ行くよ!せるな!!あたしを信じて…心に念じて!)」 えっ…ええーーー!? 声の導きに…言われるがままに…私は「彼女」を信じて心に強く念じた。 「……ここかっ!!」 激しい閃光に、罪人は目を眩ませた。 光の中から出てきたのは、赤い杖を持った…女子高生姿の少女。あたしだ。 「…な、なに?!さっきと様子が…!?」 うろたえる罪人にあたしは声を発した。 「いい加減にしてよねー!さっきっからしつこく狙われるの、そろそろ飽きてきたんだけど!」 「こいつ…姿が違う…!?」 「大人しく堕ちなさいよ!」 あたしは軽く杖を振りかざした。 「うわあああああああ!!!」 「こっちもね!!」 追いかけてきた別の罪人にも杖を振りかざす。 「あぎゃあああああ!!」 …って、本当に数多いな!? 「…!!貴様…もしや…!」 「…あんたも堕ちな!」 「…ちょ!ここどこ!」 「竹芝だ!」 少し遠目げの方向に、俺達は見たことのある人物を発見した。 「…あれは一昨日の!?」 「…姿が変わってる! まさか間に合わなかった…!?」 近づいてみると、星海が一人で罪人と交戦していた。 「残念ながら、あたしは死神とかじゃないんで魂をどうするって力は出せないのよね…どうする?」 「…!(いまだ!)ちょっとどいて!」 ぜくろが飛び出した。 「え!?」 「あんたが本体ね。大人しく狩られな!!」 言ったが早いか、ぜくろは星海が見ている至近で鎌を振りかざし、罪人の魂を素早く回収した。 「ひゃ…!眩しい!一瞬すぎてわからなかった… でも、終わったみたいね……体、返すね」 見ていた星海の体が突然光った。 「…ふう。魂回収終わりっと…あれ?!」 光が収まったと思ったら現れたのは…昨日助けた女性だった。 「…遅かったじゃないですかー! もう来ないと思っててあらかたやっつけちゃいましたよ…!」 その女性の一言にぜくろが戸惑う。 「(また入れ替わってる!?)」 ぜくろさんが混乱する姿を私は見ていた。 …やっつけたのはまりむが、なんだけどね… 「そういやまりむ…これからは相互に入れ替わるって言ってた…」 ぽつりと、私が呟いた。 「…もしかして、相互変身能力(そうごへんしんのうりょく)か?」 修平さんが、問いかけてきた。 「…相互変身能力?」 「ああ。今まではお互いの心…人格だけが入れ替わるものだと思っていた。 しかし、あるキッカケを境に、人格どころかその姿まで入れ替えられる様になる。 そんな能力だ」 「私と…まりむが…変身…」 「だからさっきまでいた女子高生姿の星海は 今そこにいる星海…じゃなくて、今はせるなだっけ…が変身した姿で、人格も能力も完全に入れ替わってた。」 「そんな…私、いつの間にそんな能力を…?!」 「今さっき、お互いの心が通じ合っていた瞬間があれば、 それがトリガーだ。その後はその姿になりたいってだけで変身できる」 「えええ!?」 お互いの心が通じ合っていた…瞬間!? 「試しに念じてみろよ?」 「う…あ…わ、わかりました…!」 ダメ元で私は心に念じてみた。すると… 「…えーっ!?本当に変身した!?」 「…!」 あたしを見て驚く黄緑髪の女性の目の前にいた羽積さんが口を開いた。 「うわマジだった…!調査情報断片的にくっつけて話しただけだったのに!」 「調査情報?なんの?」 「その…18歳の頃の星海」 あたしの調査情報かいっ!! 「何?その面倒臭い前置きいいよ、まりむでいいよ」 仕方なしにあたしは下の名前をもう一度名乗る。 「…ちょっと人格入れ代わりたいって念じてみ」 「…うん?」 羽積さんに促されて、あたしは念じてみた。 「…う…わ…」 再び現れた私を見て、修平さんが口をぱくぱくさせていた。 「あ…本当に念じただけで変身してた…!」 「ま、まあ…」 取り乱していた修平さんは、急に真面目な顔で私に言ってきた。 「無闇矢鱈に変身するのは正直アレだが… 上手いこと使いこなせば今までより楽に罪人を追い払う事も可能になるだろう。」 なるほどね。使い方次第で…ね。 「…しかし、別人に変身出来るのは羨ましい 俺なんかなんで動物…」 何やらぶつぶつと呟いている修平さん、実は大分悩みを抱えている様子? そっか…私の力で倒せなさそうな時はまりむの力使えばいいんだ…! それなら良いのかも… 「相互変身能力…使いこなしたい!」 「まあそう焦るな。」 修平さんが、軽く肩を叩いてくれた。 「あと…これは私自身としての希望だけど… 折角覚醒した私の持ってる能力も、使いこなせる様になりたい…!」 今時点での本音は、変身じゃなくてむしろこちらの方だった。 思わず口走ってしまった本音に、ぜくろさんがシンプルにアドバイスした。 「それは、戦闘への加勢を重ねて使いこなせる様になるから、必要なのは場数だね。」 場数ですか…!結局、それしかないってことなのね。 「…そ、それはしょうがないなあっ!」
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