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+++++Side "Selna"
帰宅した私は、傍らに出してあった開けっ放しのキャリーバッグを見つけて愕然とした。
「しまった…!何も考え無しに引き受けちゃったけどそういえば明日から社員旅行だったわ…。」
どっちを優先するべきって、罪人退治もそうなんだけど、悲しいことにこの場合は会社なのよね…
数分迷ったが、ある作戦に打って出ることにした。
どうせこの後ひっくり返す事になるだろうクローゼットを開き、その中からとってあった服を取り出す。
私が12歳くらいの時に買ってもらったお気に入りの服で、処分できずにずっと持っていた挙句、
この町に引っ越す時に持ってきてしまったものだった。
…これを再び使う時が来ることになるとはね。
そこらへんに放り出していたトートバッグに服を詰め、私は携帯電話を取り出した。
+++++Side "Kagra"
「社員旅行?」
せるなから話を聞いた俺は、マジかよ…と頭を抱えた。
「うん。それも研修旅行でがっつり2週間。悪いことに明日からなの…で、今準備中。」
「参ったなー…しかも研修旅行とあっちゃ断れないよな。」
「私が予定忘れてたのも悪いんだけど…
さっき引き受けるって言ったけど、ほんっとごめんね!今度食べ放題でお詫びする!」
「いやそこまでしなくても」
「…実はもう助っ人をお願いしているのよね。もうそろそろ来るはずなんだけど…」
「手が早いな…」
「『どっちも動けない』じゃ仕方ないしね、と思ってね」
「あ、そうか…不便だな…」
程なくして、駅前に一人の少年が現れた。
「ふあー!!電車遅れてた!ごめんなさい!」
「いいのよとわくん、急に呼び出してごめんね」
とわくん、と呼ばれたこの少年。
実をいうと、ここにいるせるなと本名が全く同姓同名の「永久井せるな」である。
ややこしいので、苗字からとってニックネームは「とわ」としているのだが。
言っちゃ悪いが、この二人が揃うとある意味余計にややこしい。
「それで、話…って?」
俺は一通り、修平から聞いた話を要約して少年に説明する。
「え…」
「…そんな事情が…なんで言ってくれなかったの!?」
…何故せるなが驚いているんだ、と思ったが、
そういえば彼女に真実を伝えていなかったことを思い出した。
「ごめん!あの場で伝えられなかったんだよ」
「…。」
「しかし、困ったことになっちゃったね。死神さん、死んじゃったって」
「俺も困ってる。だから最初は本当のこと話そうと思ったよ。」
「…そんな大変な事になってるんだったら直ぐに言ってくれないと困るわよ…今更仕方ないけど」
「正直すまんかった!!」
「……それで、僕の力を借りたいってわけなの?」
「厳密に言うと、そうなるんだろうな。」
「わかった!なんとかしてみる!」
オレンジ色と紫色のツートンカラーで、菱形っぽい形のトップが付いた鈴の付いた杖状のアイテム。
それを鞄から取り出し、とわが念をこめる。
ほどなくして、杖が光りだした。
「そのいかにも魔法少女チックなステッキはなんなんだ……」
「インビシブルタクト!しゅうへいさんにね、『僕もせるなお姉ちゃんみたいなカッコイイ道具欲しい』って冗談半分で言ったらくれたの。」
「カッコイイどころか、『可愛い』系だろどう見ても。マニアかよあいつは……そのうち女装させられるぞ」
「あ、あははは…」
「それはとわくんの能力に関係するものなの?」
「修平が言うにはこいつ、とんでもない能力持っているらしいんだ」
力を注ぎ込んだらしい、とわがタクトを持った状態でこちらに近づいてきた。
「はい、これに僕のありったけの力を注ぎ込んでみたよ。
効果はあるかわからないけれど、このタクトを死神さんの手に持たせてみて。」
「手に持たせる……?」
「うん。手に持たせて、『生き返りますように』って念じるの。そうしたら生き返るんじゃないかなって」
「……本当にそれで大丈夫なの?」
「確証はないけど…成功するように祈るしかない」
「……随分アバウトね……」
「他に方法思いつかないし、これでやるしかないだろ!そんなわけでとわ、頼んだ!」
「え!僕がやるの!!?」
「当然だろ!力持ってるのはとわだし!」
「えええ、分かった…僕やるよ。」
「じゃ、後は任せたわよ。とわくん、これ使って私の代わり、たのむわね!」
と、せるなは持ってきていたトートバッグをとわに押し付けた。
「うん、わかった!…って、ちょ、せるなお姉ちゃんなにこれ!!?」
「秘密兵器よ」
「えええええええええ」
「って、こんな悠長に話してる場合じゃない!私明日の準備しなきゃ!じゃあね!」
腕時計を確認したせるなは、焦った表情で駅に走っていった。
「しかし、何でとわはそんな能力を持ち合わせてるんだ?」
入れ替わりに合流した修平が不思議そうに問う。
「パワーストーンのおかげかな。僕ね、パワーストーン大好きだから」
「そんなもんで力つけば俺だってついてるだろうが……」
「でもほんとのところは僕にもわからないんだ。とあるきっかけがあって、この力が生まれたのかな?」
「それは凄いな;」
「同じ名前でも違う能力だと思うが。仮にもお前らの誕生石はターコイズ……」
「でも僕の守護石はオレンジ色だよ?」
「よくわからんが、なるほど。それでとわのイメージカラーがオレンジなワケか」
「あ、でも射手座だからエレメントは『炎』なんだけどね」
修平があきれて俺に言ってきた。
「……とわって、実は相当の占い馬鹿なんじゃないの?」
「ただの興味津々なやつだ。」
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