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「今日は、何か機嫌悪いんちゃいます?」
作業車に乗って現場へ向かっている間、
何かあると市川さんは、いつも寡黙になる。
「別に。何もない」
絶対嘘やわ。
これは、奥さんと何かあったんやわ。
まあ、ええけどね。
そのうちまた「うちの奥さん」て、話し出すに決まってる。
うちの両親なんか、ほとんど会話も無いのに…
市川さんは違う。ほんまの愛妻家やわ。
時々、なんか無性に腹立つねんけど。
それが恋心なのか?
何なのかは、良く自分でも理解出来ていない。
まあ、今の時点でハッキリ言えるのは
50過ぎたおじさんの惚気話なんか、どうでもええわ。
ちゅうことやね。
ところが…
この日は、なんかお通夜みたいで
市川さんの様子がいつもと違った。
「何かあったでしょ…?」
「うちの…猫が今朝死んだんや」
「あ、えっ?」
「悪いけど…今日は、早く帰るわ…」
「あ、は、はい。わかりました…」
ね、猫やったんか…そうなんや…
確か…。
一年前位にもこんなことがあった。
何かあの時は、ほんまボロボロやった。
市川さんの話によると、たくさんの猫を保護して飼っているらしい。
三年前くらいにも、会社の倉庫で産み捨てられてた
子猫を連れて帰っていたしね。
ほとんど世話は、奥さんがしてるみたいやけど
猫が具合悪いってLINE来たら、めっちゃ頑張って早く帰るもんね。
こんなふうに毎日毎日見ているうちに、いつの間にか…
私は、
市川さんのことを
どんどん好きになってしまっていた。
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