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ふたりで圭のベッドの横に客用布団を敷いた。
マンションの一室はそれでほぼいっぱいになってしまう。
圭が風呂に入っている間、岳大は部屋をチェックするでもなく、ただテレビを見て過ごした。
まだ一緒に下校するようになって、3ヶ月も経たない。学校が同じでクラスも隣だが、日中話す時間はなかった。
二人が知り合ったのは“ミキハラ進学スクール”という学習塾だ。
少人数でマンツーマンの個別指導をする塾で、普段は講師としか話さない。
ただ待ち時間だとか宿題を済ませるために自習室を借りることがあって、時間が一緒になることが多かった。
圭は高2になってから塾に入ったのだという。
いつからか、教材に視線を落とす横顔に見とれてしまうことが多くなった。
形の整った綺麗な鼻をしていて、睫毛も長い。
派手な顔立ちではないけれど、男にしておくには惜しいような可愛さだった。
さっきの指突っ込み事件などは気心の知れた友人なら笑い飛ばして忘れてしまえたばずだ。
なのにいつまでも温かくぬるっとした感触が蘇ってきて、胸がざわついた。
「次どうぞ」
圭は岳大に新しい下着を出してくれた。
「わりいな」
「いいよ、この嵐じゃ帰れないだろ」
包み込むような優しい笑顔。圭は今まで岳大が付き合ったことのないタイプで、いつもつるんでいる友達より落ち着いて見えた。
岳大は浴室へ行き、湯船に浸かった。
軽く溜息をつく。さほど親しくない友人の家に泊まることになるとは思っていなかったし、こんなにそわそわした気分になるとも想像しなかった。
どうしたことか、股間が半分ほど立ち上がっている。
何もかも気のせいだということにして、頭を激しく振った。
岳大が風呂から出てみると、圭はベッドに入っていた。
時刻は夜10時過ぎだ。
「いつもこんな早く寝んの?」
「……いや、そんなことない」
圭が体を反転させ、見上げてきた。
照明はついたままだから、横になって岳大を待っていたというところか。
「ゲームとか、ないの?」
「せっかく塾も休みなんだから、早く寝ようと思って……」
圭は週に2回、塾へ通っていた。1コマ90分を2コマ、つまり3時間ぶっ通しで勉強するという。
岳大は曜日も回数も同じだが、集中力は90分が限界だった。
「お前、一気に勉強しすぎなんだよ。たくさんやりたきゃ回数増やせばいいのに」
「だって、家から遠いし」
二人が通う私立智徳学院高等部には、東京近郊の様々な地域から生徒が通ってきていた。
「オレんちだってそこそこ遠いぞ」
「ごはん作んなくていいんだろ、福見は……」
圭の母親は公務員と聞いていたが、職場が遠く、夕食を作る余裕がないらしい。
「まあね、オレが帰んの遅いから、夕飯遅いし」
岳大は塾のない日は友人たちと寄り道し、買い食いもする。まっすぐ家へ帰り家事をしなくてはならない圭を可哀想とは思うが、少し良い子すぎるのではと心配にもなった。
「オヤジなんか一人で豆腐でも食わせときゃいいんだから、お前は無理すんなよ」
「そうもいかないよ。父さんだって仕事で疲れてんだし、まともなもの食べなきゃ」
「お前がオヤジの奥さんみたいじゃん」
圭は岳大を見て口をつぐんだ。
人の家庭のことに口出しする気などなかったのに。
「ちゃんと勉強はできてるから。塾、楽しいし」
「そっか」
二人はそれぞれの寝床に寝転がった。
見慣れない天井に、外から聞こえる雨風の音。
シンとした室内にはお互いしかいない、という事実がまた岳大を落ち着かなくさせた。
「お前、好きな子とかいんの?」
こういう時定番の話題。圭の返事はあっけなかった。
「いない」
「ふうん。2組って可愛い子いないもんね」
圭みたいな男は、どんな女の子を選ぶのだろう。
しかし岳大は圭の好みなど尋ねないで、布団にもぐりこんだ。
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