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「俺も一つ欲しいな、滋もきっと食べてみたいんだよ」
「だから老舗和菓子店と、パン屋の金持ちのボンボンに渡すような品ではなく、素朴な庶民のおやつなんで」
「俺に渡したら今後新作の参考になるかもよ?そうなれば、きっと美味しい品で還元されるでしょ」
すぐ紙袋から取り出し、机の上に置くと滋さんが奪い取り、舌打ちしてからもう一つ出し瑠里に手渡しするように命じた。
「御意、美味しい和菓子が届きますように」
まだ口に合うかも分からないのに、希望を念じながら歩兎さんに預ける瑠里に苦笑いが出る。
木村さんはコーヒーを準備し、彼らは遠慮なく座るので早くこの場から立ち去りたかった。
当然話題は先生方になり、木村さんから説明してもらってたが、死神は唯護さんが便乗した事を指摘するので目を逸らし誤魔かす。
「しかし前の印象を払拭するポップな柄だったけど、何気にシュークリームが点滅してたよね?」
「えっ、マジで?話すのに神経使いすぎて気付かなかった」
「私の予想では、次の希望の品をチラつかせたんじゃないかな」
プッと吹き出した男性陣は、先生方がいないので笑いを我慢する気はないようだ。
木村さん予想が鋭いと思えるのは、先生方も食に関する反応が分かりやすいからだ。
特に甘い物への執着が強いと思われ、流行りの品にも憧れがある感じがする。
「姉妹に似てるね、でも俺も一回屏風見てみたいな」
「目に映ったイコール死を覚悟の上なら入ってみるが良い、奴らはどの角度からでも容易く仕留めるぞ」
勝ち誇ったような笑みを浮かべる殿だが、空間を出す当人をよそに楽しんでる節がある。
ちょっと摘まんでみちゃおうかと、プラスチックのフォークで器用に差し入れをカットする木村さんといい、皆んな自由だ。
イケメンの死神二人と、妖怪エリアのイケメンに盗賊のお頭と殿まで揃っているので、二時間のスペシャル番組が出来そうだ。
自分は観客のつもりで四人の様子を見つめていたが、これからの事を考えると若干気が重くなる。
「う〜ん、これ好きかもぉ、ホワイトチョコ入ってる?」
「はい、ちょっとだけリッチバージョンです」
手を伸ばす間隔が短い木村さんに、少し嬉しくなるが男性達もちゃっかり味見していた。
商売をしてる男どもはアイデアを出したり、新作は何を出した等話を始めていた。
そんな中刺すような視線で無言の死神に、忘れかけた気の重さが蘇る。
「差し入れは渡したんだし、先を考えるなら俺と何処にデートしようかで悩んでくれる?」
「殺すぞオーラ全開で言われても、全然言葉入ってきません」
「般若の機嫌が悪くならん内に、我らは帰るとしよう、ハーッハッハッ」
迷惑な殿笑いを合図に立ち上がったが、木村さんにはゆっくり休んでねと声をかけられた。
師匠の誘拐から始まり、今回も色々な事に巻き込まれたが、とりあえず帰って寝ようと思ったのは処暑の日事だった。(完)
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