恒例じゃない行事

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「では交渉次第によっては、前向きに検討してもらえるって事でしょうか?」 開いたドアに身体を寄せた煌月(こうが)の姿が見えたので、即座に訂正と反論をした。 「交渉には応じかねます!それに、部外者に勝手に立ち聞きされるような環境ってどうなんですか?ウチは秘密を洩らさないという事に重きをおく会社じゃないんでしょうか」 「ええ、勿論そうなんだけど……この件に関しては特殊班から話を持ち込まれてるから、内容は共有しても問題ないわ」 妖怪班から持ち込まれた内容なんて絶対に引き受けたくないし、何とか断ってもらいたい反面、まーちゃんについては気になる。 仕事ではなくプライベートで訪問したい気持ちはあるが、物騒な内容だけに危険が伴うと分かっているので安易に引き受けたくはない。 「なんせ私共はまだ新人なので、社長や特殊って名の付く部門の方が取り掛かる仕事だと思います。家には母と可愛い家族が二匹居ますので大黒柱はケガ又は死んでる場合じゃないんで」 「その通りです、姉は何度も死にそうな目に合ってますし、今回もゴリ押しするなら……他の仕事も考えねばとも思っております」 『えっ、今回はやけに断る気満々じゃん!』 いつもは報酬次第では考えを変える瑠里が、きっぱりと言い切ったので木村さんも煌月に目をやり、無理そうという表情を浮かべている。 「そういう事なら……うちとしても姉妹に無理を言う訳にはいかないし、応援は金刺繍を出すって事で打ち合わせに入りましょうか」 いつもは色んな策で品を変えてくるネゴシエーター木村さんも、瑠里が味方に回らないと白旗を振るしかないようだ。 「そうですか……鎌イタチの嫁と姉妹は良い信頼関係だと聞き、この事態に一肌脱いでくれると思いましたが、やはり難しいんですね。例え死んでいたとしても遺体も見つからないまま可哀そうな……」 「あのね、新人の身の危険も考えろや!妖怪エリアの魔界の住人相手に何が出来るっつーの、レベルが違い過ぎでしょうが!」 今回の瑠里はまともに答えていて、忍者探偵の口調も挟まずこの調子だと断れそうだし、正論なので誰も言い返せそうにない。 「もし二日後に販売される、忍者探偵Xのプレミア付き映画チケットに並べないという不安があるなら……報酬に加え特別プレミアチケットと食事券もつける事も可能です」 「と、特別プレミアって高額で諦めてたのにな……」 「揺さぶられてんじゃねーよ!頑なに断る姿勢は毎度の忍者探偵のせいか!命の危険を重要視しろや」 断っていた理由にイラつきながらも、ここで足場を固めておかなければ、奈落の底へ引きづり込まれる可能性も高い。 「よければうちの職場で、新作の和菓子でも食べつつ話をしません?そうそう、百合さんの先生方も多分話したいのではないかと」 「えっ?せ、先生方……」 少しご無沙汰だったが、妖怪エリアで私の武器というか巻物の中には、恐ろしい魔界の住人(先生方)が住まわれている。 瑠里の先生方は結構気さくな感じで、良い関係を築いてるようだが、こちらはガラも悪くイカつめな方が多く、見た目というかシルエットもそのまま。 なので用件がない時に無闇に呼び出したくないし、皆さんは恐らく老人ホームみたいな場所に生活されているので、邪魔してお怒りも買いたくはない。 「だって今回攫われたのはイタチですから、関わりのある先生が居たら絶対に百合さんとお話があると思うんです……気のせいかもしれませんけど」 確かに鎌イタチの世界にも巻物の先生とトップとの面会ツアーに行ったので、先祖がいるのは間違いないし、もし話せる環境が整っていれば何か言われる可能性は高い。 でも知らない間に事件が起こり、いつのまにか解決したという流れで終われば、特にこちらからお知らせしなくていい気もする。 「私は普段特殊班のエリアではありませんし、自らそちらに出向いて巻物の先生方に知らせなくても、現役のプロに任せておけば全て一件落着と……」 「先生方をとても恐れているのは分かりますが、こういう時にこそ助け合いの精神というか貸しを作っておけば、後々ピンチに助かりますし現に助けられましたよね?」 「改めて言われるとウチの社長の『守ってやる』より、姉さんの先生方に保険をかける方が生存率は高くなる予感はする」 実際に私は死にかけた時や、その後慣れない妖怪エリアで何度も助けられている。 口も悪いしまだ巻物を使うには百年早いと思われているので、皆さんの機嫌を損ねないよう注意しながらたまにトレーニングにも向かっている。 今後の事を考えると悪い案ではないのも分かるが、二の足を踏んでしまうのは妖怪エリアの厄介事はかなりヘビーな上、対処方法も分からないからだ。
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