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歩兎さん達は配り終わると飲み物を手にし、老人達に声をかけたりしていたが、私達はハンバーグステークから目が離せないでいた。
「近くで見ると堂々たる姿だね」
「あれが二万五千円の貫禄だよ」
さすがに勝手に食べる事は出来ないので、当たり障りない距離から見ていると車椅子の婆さんが追加で説明をしてくれる。
「注文してから真空パックで送ってくれるからね、肉も大きめと小さめの二種類を組み合わせてるから食感も最高だよ、なんせ……」
「ぎゅるるるるぅぅ――」
婆さんの話を遮る程のボリュームで、瑠里の腹の虫が叫び声をあげると呆気にとられた顔の後、老人達は大笑いしていた。
「威勢がいいね、分かりやすく訴えてるよ。空蝉屋の人は上品な人が多いけど……まぁいい、まずは食べなさい」
すぐにお礼を言いステークを口にしたが、本当に貧乏人には一生食べれないような味と弾力で無心になって頬張っていた。
「どんだけお腹が空いてたんだい、サラダとスープも飲んだらいい」
違う人がスープを指差してくれ、サラダも有難く頂いた。
半分以上食べた所で周りに視線に気づき、ペースを落とそうとしたが、瑠里はハンバーグをしっかりと噛みしめ気にならないようだ。
「か、彼女達はウチの者じゃありません。本職はイザリ屋で楓を病院まで運んで貰ったんで……」
歩兎さんが焦ってフォローに回っていたが、『そんなガサツな奴はウチの人間じゃない』と訂正を入れてるように聞こえる。
「へぇ、この子達がイザリ屋?全然そうは見えないね」
「楓ちゃんを病院に運んでくれたのかい、この春巻きも食べなさい」
ここの人の食べ方からいってドン引きされると思ったが、イザリ屋で楓さんを運んだと聞くと老人達は食べ物を持ち寄ってくれた。
皆が持ち寄った物を食べおはぎを頬張る頃、世話役の人が食後のコーヒーを持って来ると便乗してカップを受け取る。
「楓ちゃんより沢山食べたんじゃないかい?細いのにね」
「こんなに美味しい物は二度と食べれないと思うと、お腹が空いてたのもあって勢いがついて……」
イザリ屋の給料が安いのかと心配されたが、元々貧乏でと言わなくていい話をする羽目になった。
寝る時間が近い老人も居るのか何人か部屋に戻った者もいて、今は約半分の人達がコーヒーを口にしている。
畑の作物や神社でもイベント事をそれぞれ話をしていたが、徐々に自分達の内容に切り替わると老人の愚痴大会に変わっていった。
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