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辺りを見ると肝心な時に空蝉屋が居ないが、婆さんの一人が寝物語を読んであげてると教えてくれた。
イタチの世界に困り事があるのは分かったが、他の世界にもないかと聞こうとすると、まだ話は終わってないと窘められる。
厄介なのはイタチの世界の祭りの時期が始まり、それと被ってるという事だ。
有名なのは期間限定の出店で、特にイタチカステラは根強い人気で、他の世界からも買いに来る者が沢山いるらしい。
他世界に被害者を出すと大変な問題になるし、かといって祭りを中止する事も出来ず、どうにかしないとマズいようだ。
すぐに報告するという返事をすると、次の相談者が目の前に座ったが、いつの間にか話す人が移動するシステムになったようだ。
見た目は人と変わらないイタチ人間だが、内容は蛇の世界の話を股聞きしていて、噂ベースだが情報源は信じられると言っていた。
有能ジャーナリストもしくはベテラン刑事かと言いたいが、ホームに集まる老人なのに他の世界にネットワークがあるのは驚きだ。
段々と内容が増えていくのでメモ用紙を借り、自分だけが分かるようにあだ名を使ったりしながら記入していく。
途中瑠里がコーヒーを貰いに行ってくれ、ついでに小さなスポンジ生地を紙皿に乗せていたが、どうやらそれがイタチカステラのようだ。
「私達の世界のベビーカステラみたいだけど……んっ!甘みも多くて美味しいし、安っぽさがない」
「ホントだ、祭りだからってボッタくってないね、でも高そう」
他にもクリームや小豆もあると聞き買ってみたいと思ったが、イタチカステラの特徴はハチミツで、カステラ用に飼育されているこだわりようだ。
気軽に買える値段ではないかもしれないが、今食べているノーマルでもクオリティが高いので一度違う味も試してみたいものだ。
あれだけ食べたのによく腹に入るねと言われたが、高価でもう食べれないと思うと、少しでも口に入れておきたいという貧乏心だ。
結局相談事は普段執行をしているエリアが四件、妖怪エリアが二件ですぐに取り掛からないとマズそうな案件はイタチの世界だった。
婆さん達は抱えてた相談を吐き出し満足したのか部屋に戻って行くが、その途中で歩兎さんが入って来て、老人達に声をかけていた。
「いやなに、アンタ達は男前だねって話で盛り上がってたのさ、どっち派かと多数決も取ってね」
全く違う内容を澄ました顔で答える婆さんには苦笑いだが、姿が見えなくなる直前に皆一度私達二人を見て去って行くのは気にかかる。
暗黙の了解で『結果は耳に入るからね』と言われてるようで、改めて重要な役割だと思うが、久々にお婆ちゃんと話したような楽しい時間で嫌な仕事ではなかった。
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