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会話を小耳に挟むと親が金持ちみたいで、内緒で借金をしているダメ息子だと分かった。
少し待って欲しいと頼んでいて、初めは部下が対応していたが、奥から社長が出て来ると若者の正面に座った。
「うち以外にも何社か借り入れがあるようですね、利息もありますし払って頂かないとこちらも商売にならないんですよ」
「もう少し待ってくれたら利息も含めて返すって言ってんだろ」
段々と若者の声が大きくなりお金を借りているのに、開き直った態度に思わず手が止まった。
もし殴りかかったり喧嘩に発展し、おばさん達が巻き込まれても困るし、そんなタイミングに強盗に入られたら最悪だからだ。
瑠里も盆を持ち近くに移動していたが、社長は『まぁ落ち着いてください』と若者を宥め余裕の表情だ。
「うちもね……ガキの使いじゃないんで口約束を何度も聞く訳にいかないんですよ、お分かりですね?」
「だから、今度は……」
「お父様にお願いするしかなさそうですね、これ以上は待てません」
急に顔色が変わった若者だったが、社長の目つきは大らかな雰囲気はなく、盗賊のお頭並みの貫禄があった。
すると急に立ち上がるので瑠里が動こうとしたが部下数人が止めに入り、若者は大声を出していたが、おばさん達は毎度の事のように動じてない。
「親にも迷惑が掛かりますが仕方ありませんね、ご返済頂くまで地の果てまで付きまといますよ。それが金貸しってもんなんでね」
凄みのある視線に耐えきれず目を逸らし、部下に連れられ事務所を後にしたが、やはりこういう商売は優しいだけでは無理なんだと改めて分かった。
「驚かせてすみません、うちは街の人に寄り添う会社ですが、たまにああいう方も混ざるんでね。お客様なんで譲歩はするんですがなかなかねぇ……」
「いえっ、大変なお仕事だとよく分かりました」
慌てて計算の作業に戻り瑠里も受付を雑巾で拭いていたが、借金をせず生活出来るよう仕事するしかないと気合いが入る。
お昼の時間になると社長は男性の部下とランチを食べに出かけたが、おばさん……いや、先輩方も交代でコンビニに行くようで事務所は一旦締めるようだ。
お弁当持参の先輩も一人いたので、私達はパンで我慢し何かあってはいけないので念のため待機する事にした。
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